/2004年9月号

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特集

温暖化3
未来を予測する

SEPTEMBER 2004

文=バージニア・モレル 写真=ピーター・エシック

河や洞窟、サンゴ礁などから過去何十万年分もの気候データが読み取れる。それを基に将来の気候を予測すれば、どんな未来が待ち受けているかが導き出せるが、さて、未来はどうなるのだろうか。(この記事は2004年9月号に掲載されたものです。)

 花粉化石を調べて過去の植生を研究している、米国オレゴン大学の古気候学者キャシー・ホイットロックが大きな声をかける。「1、2の3、それっ!」。米国北西部、オレゴン州のコースト山脈中部にあるリトル湖の岸辺でのこと。ホイットロックと学生2人、私の計4人はコア採取機を握る手に力を入れ、引っ張り上げた。「もう一回」と彼女が指示する。粉化石を調べて過去の植生を研究している、米国オレゴン大学の古気候学者キャシー・ホイットロックが大きな声をかける。「1、2の3、それっ!」。米国北西部、オレゴン州のコースト山脈中部にあるリトル湖の岸辺でのこと。ホイットロックと学生2人、私の計4人はコア採取機を握る手に力を入れ、引っ張り上げた。「もう一回」と彼女が指示する。

 岸辺のぬかるんだ泥土の中に彼女らが埋めておいた筒形の試料採取容器が、ゆっくりと上がってきた。

 「あと、もう一回」というホイットロックの掛け声に合わせて再び引っ張り上げると、やっと容器を抜き取ることができた。

 ホイットロックは子供がプレゼントをもらった時のような笑顔で、直径5センチ、長さ1メートルほどの古い泥土のコア試料を取り出した。

 「素晴らしい試料です」。彼女はそう話すと、泥土の試料の内部を調べるため、ポケットナイフで縦に切り込みを入れた。

 「この深みのある茶色の部分は有機物、特に花粉がたくさん含まれているための色でしょう。顕微鏡で見ないと花粉の存在は分からないけど、間違いなく含まれているはずです」

 この花粉にこそ、ホイットロックら研究者が取り組んでいる難問を解く手がかりがある。それは、周期的に起こる「急激な気候変動」の原因は何かということだ。

 ここで言う気候変動は、過去約100万年の間に10万年ぐらいの周期で氷期(寒冷期)と間氷期(温暖期)が交互に訪れた「緩やかな気候変動」のことではない。寒冷期から温暖期へと急激に移行し、また逆戻りした変動のことだ。こうした急激な変動はどれくらいの頻度とスピードで起こったのか。そして、おそらく最も重要なことは、過去に起きた急激な気候変動から、現在および今後の地球の気候が変わっていく様子を読み取れるか、だ。

 こうした疑問を解明しようとして、研究者は過去の気候を知るための材料を、驚くほど様々なところから集めている。氷河の氷やモレーン(氷河が運んだ岩屑)、鍾乳洞の床にできた石筍(石灰質のタケノコ状の塊)、年輪、サンゴ、砂丘、それに深海底の堆積物に埋まる動物性プランクトンの微化石……。さらに、古代の碑文からワイン醸造業者や園芸家の日記、航海日誌にいたるまで、人間の残した記録に手がかりを求める研究者もいる。

 「人間の記録と自然の記録の両方が必要だ」と、米国オハイオ州立大学の氷河学者ロニー・トンプソンは言う。彼は、熱帯の高山地帯で解けつつある氷河から雪氷のコア試料を採取して研究している。「人類誕生の時代の前と後の気候のメカニズムについて調べている。そうやって前後を比較して初めて、人間が気候にどんな影響を与えるかが解明できるのです」

 気候変動のスピードについては、ホイットロックがリトル湖の泥土のコア試料を使った研究で明らかになっている。ここで採取した試料には、1メートル当たりで約2300年分の樹木や草花の花粉の粒が含まれる。試料から花粉を見つけるには、まず各標本からごく少量の土を取り、それを化学物質の溶液に浸して花粉以外のものをすべて取り除く。そうして残った花粉をほんの一滴スライドに載せ、そこに含まれる300粒ほどの花粉がどんな植物の花粉かを一つずつ特定していく。この作業によって、コースト山脈の植生が過去の気候変動によってどう変化したかが解明できる。

 「ここでは深さ18.25メートルで湖底の岩盤に突き当たります」と、ホイットロックは試料を載せたスライドを顕微鏡にセットしながら言う。「その深さから採取した花粉は、4万2000年前のものになります」

 リトル湖は、最終氷期(約7万年前から約1万1500年前)が訪れる前に起きた地滑りで小さな川がせき止められてできた湖だ。泥土に含まれる花粉を調べれば、「最終氷期に入る前と、約2万1000年前の最も寒冷な時期にオレゴン州の沿岸地方がどんな環境だったかが分かる。そして約1万3000年前に温暖化が進んだ時期に、環境が大きく変化したのが読み取れる」とホイットロックは言う。「最終氷期のピークだった2万1000年前のこの辺りの森の様子がよく分かるのです」

 私が顕微鏡をのぞくと、ホイットロックはスライドを動かし、花粉をいくつも見せてくれた。でも実際には花粉の種類は二つしかなかったので、思いのほか分かりやすかった。エンゲルマントウヒとメルテンスツガの2種類だ。

 「現代のコースト山脈にエンゲルマントウヒは生えていません。今見られる針葉樹の多くはダグラスモミです。でもこのスライドの上に、その花粉はない。ダグラスモミの花粉が現れるのは、最終氷期が終わりに近づいた頃です。そしていったん現れると一気に増え、トウヒの森は消えてしまう。それがたった200年から500年の間に起きた。そんな短い期間のうちに森がまるごと消え、違う樹種の森にとって代わられたのです」

 ホイットロックはひと呼吸おいてから続けた。「それほど劇的な変化がなぜ、どのようにして起きたのかを突き止めたい。もし、また地球に氷期が訪れたとしたら、あるいは今以上に温暖化が進んだとしたら、どんなことが起きるのか。その時、私たちはどう対応するのでしょう」

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