/2004年9月号

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特集

温暖化2
生き物たちのシグナル

SEPTEMBER 2004

文=ダニエル・グリック 写真=ピーター・エシック

球の生態系は地球温暖化によって大きな影響を受ける。サンゴ礁の白化、枯れる森林、動物の渡りの時期の変化はその一例。南極の「南極半島」周辺にスポットを当て、その劇的な変化を報告する。(この記事は2004年9月号に掲載されたものです。)

 南極大陸の一角にある南極半島は、南米大陸に向かって1300キロほど細長く延びる。過去30年のうち23年間、ここで調査を続けている環境問題の専門家ビル・フレーザーによれば、以前と変わっていないものはただ一つ、壮大な眺めだけだ。ここでは陸も海も、そしてそこで暮らす生き物たちも、すべてが変化の波にさらされている。この一帯は地球上で最も急速に温暖化が進んでいる地域の一つで、冬の平均気温は過去50年間で5℃ほど上昇した。

 最も目立つ変化はマール山麓氷河の後退だが、フレーザーが気にかけているのは、温暖化がアデリーペンギンに与える影響だ。孤独と冒険を楽しみながら、極地に生息する鳥類に関する博士論文を書こうと南極へやって来た彼は現在、アデリーペンギンの研究をライフワークにしている。

 南極の真夏に当たる1月のある日、彼と私は南極圏外に位置するビスコー諸島の繁殖コロニーの個体数を調べるため、近くの高台に登った。小石を集めて作ったペンギンの巣が、斑点のように散らばっている。赤レンガ色の染みのように見えるのは、糞が堆積して固まったグアノ(鳥糞石)だ。アデリーペンギンは海とコロニーの間を行き来して、食べ物のオキアミを運ぶ。陸では、体を綿毛でおおわれた数百羽のヒナが鳴き声を上げて食べ物を待っている。南極の氷の上を生活の場にしているペンギンは、アデリーペンギンを含めて2種類だけ(もう1種類はエンペラペンギン)。20年前のビスコー諸島には、子育て中のアデリーペンギンのつがいが2800組いたが、今では1000組前後まで減った。

 付近の島々でも30年間で3万2000組から1万1000組に減り、以前の3分の1程度になった。フレーザーの調査によれば、アデリーペンギンの数が減る代わりに、本来もっと温暖な亜南極地方にすむジェンツーペンギンが増えている。10数組のジェンツーペンギンのつがいがビスコー諸島にやって来たのは1990年代初め。今では660組まで増えた。

 「まったく信じられません。アデリーペンギンはもうすぐビスコー諸島から姿を消してしまうでしょう。彼らは滅びゆく運命にある」と、米国のパーマー基地の研究チームを率いるフレーザーは言う。

 「100年ほど前、ここは基本的には極地と同じ環境で、気候的にこの地域は南極大陸とほぼ一体化していました。それが今は、亜南極性の気候がどんどん強まっている。私は30年前から二つの気候のせめぎ合いを目の当たりにしてきたけれど、パーマー基地はもはや極地性の気候とは言えない。このような変化がきわめて短期間で起きたことは、恐るべきことだ」

 南極半島西部で急速に温暖化が進んだ理由は、地球規模の気温上昇だけでなく、局地的な海流や気流の変化も関係している。世界全体でみれば、温暖化のペースはもっと緩やかで、過去100年間で平均気温が0.6℃上昇したにすぎない。とはいえ、この程度の比較的小さな気候の変化でも、影響は自然界全体に広がっている。フレーザーが心血を注いできた南極半島の調査は、温暖化が地球全体の生態系に与える深刻な影響を解明する手がかりを与えてくれる。

 すでに動植物や昆虫は温暖化に適応するため、渡りや移動の時期を早めたり、交尾や開花の時期を変えたりしている。ヨーロッパでは最近の数十年間で、定住型のチョウのうち35種が、生息地域を30~240キロ北へ拡大させたことが分かった。また、多くの植物の開花期が50年前より1週間ほど早まり、秋の紅葉が5日ほど遅くなった。

 英国の鳥は20世紀半ばに比べて卵の孵化の時期が平均9日早くなり、カエルの交尾期は最高で7週間も早まった。北米のジュドウアオツバメは25年前に比べ、春に北へ移動するのが12日早くなった。カナダのアカギツネの生息地域は数百キロ北極寄りに移り、ホッキョクギツネのテリトリーに入り込んでいる。

 高山植物は自生地をじりじりと標高の高いところに移し、山頂近くの希少種を脅かしつつある。地球の気候はこれまで常に自然の変動を繰り返し、温暖化と寒冷化の間で揺れ動いてきた。それでも環境問題の専門家が現在の温暖化に懸念を抱くのには、いくつかの理由がある。まず、今回の温暖化は人間が気候の変化を加速させている可能性があること。そして温暖化のペースが早すぎて、生き物たちが変化に適応して絶滅を逃れるための時間的余裕がないことだ。

 さらに、生き物の種によって、それぞれ環境の変化への対応の仕方が違うため、相互依存の関係にある生き物同士の生活サイクルにズレが生じかねない。そして、個体数の減少を引き起こす可能性もある。

 今のところは世界の多くの地域で温暖化が進んでも、動植物は高緯度地方や高地に移って暑さから逃れることができる。だが、このような退避ルートには限りがあり、なかには人間の手で道がふさがれているケースもある。これまでの数千年間と異なり、動植物が適応しなければならない現在の世界は、温暖化問題に加えて、63億人に増えた人類の存在という別の問題も抱えているのだ。

 「過去の大規模な気候変動の際には、人類の存在は大きな障害ではなかったので、生き物たちは自由に移動できました。今は生き物たちが生息地を変えようとすると、トウモロコシ畑やシカゴのような大都会に突き当たってしまうおそれがあります」と、環境問題専門家のカミール・パーメザンは言う。

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