/2002年9月号

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特集

水の危機

SEPTEMBER 2002

限られた
地球資源の行方

文=フェン・モンテイン 写真=ピーター・エシック

在60億人の世界人口は、2050年には90億人に達すると予測されている。地球に一定量しかない水は、人口問題に大きく左右される。生活に利用できる水、すなわち淡水は、人口増加地域では当然不足する。また水不足によって自然体系も崩れてしまう。インド、アフリカ、そしてスペインでの水問題をリポートする。 (この記事は2002年9月号に掲載されたものです。)

 インドの北西部に位置するラージャスターン州のゴラタライ村にラジェンドラ・シンがやって来ると、村人たちは「これでようやく水が手に入る」という希望を抱いた。もともと乾燥地のラージャスターン州は、ここ数年干ばつに見舞われ、ゴラタライのような辺境の村では飲み水を確保するのもやっとだ。

 畑は干上がり、男たちは仕事を求めて都会に出ていった。残った者はナンとトウモロコシとチリペーストで飢えをしのいだ。追い詰められた村人は、地元の有力一族に訴え、その一家がシンに連絡をとったのだ。

 43歳のシンは、モンスーンがもたらす雨水をためてそれを1年中利用できるようにする伝統技術の指導者として、インド西部でその存在を知られていた。

 シンがゴラタライ村に着いたのは、2月の暖かい朝だった。空は真っ青で雲一つなかった。村人たちの記憶によると、最後に雨が降ったのは昨年8月。それ以来ずっとこんな好天が続いている。土ぼこりの上がる村の広場でベンガルボダイジュの木の下に村人が50人ほど集まり、シンを出迎えた。

 男たちは木綿のズボンをはき、オレンジや栗色や白のターバンを巻いていた。どの男もやせ細り、日焼けし、こけた頬にかかる立派な口髭をたくわえていた。  女たちは、鮮やかなオレンジや金色やピンクの衣服で、首から足まですっぽりと覆っていた。その鮮やかな姿が、岩と灌木の点在する乾き切った灰褐色の大地と対照的だった。

 シンは村人たちに笑顔でたずねた。
 「この村の世帯数は?」
 「80戸」

 一人の女が口をはさんだ。「もう4年もろくに雨が降っていない。この村には水をためるまともな堰がないんです」

 「堰を建設できる場所があるかな?」。ふさふさした黒髪にあご髭をたっぷり生やしたシンが聞いた。髪にも髭にも白いものが交じっている。

 「2カ所ある」
 「村人総出で工事をやれるかい」
 「やるとも」と、全員が口をそろえた。読み書きができない村人たちは、紫色の拇印がたくさん押された嘆願書をシンに出した。

 「私は手助けはするが、仕事をするのはあなた方だ。あなた方に労働力を提供してもらって事業の3分の1を任せ、残りの3分の2は私が準備しよう」と、シンは言った。

 村人たちは拍手し、女たちは歌い出した。みんなで岩だらけの丘を越え、小さな谷に向かった。女たちの足首に着けた銀のアクセサリーがじゃらじゃらと鳴る。数分後、シンは二つの丘の間に石を横に70メートルほど並べるよう村人たちに指示した。

 シンの設立した組織は、技術的なアドバイスと資材を提供している。土を盛り上げた高さ約9メートルの堰と貯水池は「ジョハド」と呼ばれ、3カ月ほどで完成する。雨期には間に合うだろう。雨が十分に降れば、貯水池にたまった水を飲料と灌漑に利用できるだけでなく、貯水池の底から地面に染み込んだ水が干上がった井戸を再び満たすようになる。

 「すぐにはそうならないが、がっかりしないでほしい。しばらくすると、井戸の水位が上がり始める」と、シンは言った。

 シンは1時間半ほどでゴラタライ村を後にすると、やはりジョハドを造りたい言ってきた近くの村に向かった。

 ここ数年、シンの指導によってラージャスターン州全域にジョハドが次々にでき、今ではおよそ1000の村に4500カ所のジョハドがある。いずれも地元の資材を利用して地元の人々が建設したものだ。この運動が成功したのは、水の管理を村人たちの手に委ねたからだとシンは言う。

 「自分たちのものだと思えば、きちんと管理する。持続的に地域の自立につながる非常に良いシステムだ。インドではこのように伝統的な方法で雨水を管理すれば、人口が増えても十分に水を確保できると私は信じている」

 地球温暖化、雨林の破壊、魚の乱獲など、21世紀に人類が取り組まなければならない様々な環境問題のなかでも、淡水の不足は最も深刻な問題だ。特に開発途上国では切迫した状況にある。

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