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特集

シリーズ 70億人の地球
酸性化する海

APRIL 2011

特集 全文掲載ページ
震災の影響で東北地方に4月号をお届けできなかったため、特集を全文掲載します。

文=エリザベス・コルバート/写真=デビッド・リトシュワガー

間が大気中に排出した二酸化炭素が、海水に溶けて起きる「酸性化」。世界中の海域で急激に進み、海の生き物の生存を脅かしている。

 南イタリアの街、ナポリから西におよそ30キロ。ティレニア海に浮かぶイスキア島の沖には、本島と石造りの橋で結ばれた小さな島がある。訪れる人たちのお目当ては、断崖絶壁に立つ紀元前5世紀の古城、アラゴン城だ。だが、島を訪れるのは観光客だけではない。科学者たちもやってくる。ただし、彼らが見たいのは城ではなく、地球の未来だ。

 この島の周囲は、2050年以降の海の姿をのぞき見るのに格好の“窓”となっている。火山活動によって海底から二酸化炭素(CO2)が噴き出て、海水に溶けて炭酸が形成されているのだ。炭酸は弱い酸だが、海水に大量に含まれていれば、海の生き物に悪影響を及ぼす。

 「海水中のCO2の量が極端に多くなると、ほとんどの生物は生きられません」と話すのは、英国プリマス大学の海洋生物学者ジェイソン・ホール=スペンサーだ。アラゴン城周辺の海域では、人間の活動によって世界中で起きている現象が、自然の作用で起きている。その現象とは、工場や自動車から排出される大量のCO2が海水に溶けて起きる「酸性化」だ。

 ホール=スペンサーは過去8年間、島の周りの海を調べてきた。水質の変化を詳しく観測し、魚やサンゴ、貝類などがどのように酸性化の影響を受けるか追跡調査している。

 酸性化で海はどう変わるのか。それを実際に見てみようと、凍えるような冬の日、ホール=スペンサーの調査に同行して海に入った。

 海岸から50メートルほど先でボートを泊める。波に洗われる島の崖の下部には、白いフジツボが帯状にびっしり付いていた。「フジツボは実にしぶとい生き物です」とホール=スペンサーは言う。だが、酸性化が最も進んだところでは、そのフジツボさえ見当たらないそうだ。

 海に潜ると、岩に張りついたカサガイを見つけた。その貝殻はとても薄く、中身が透けて見えるほどだ。海底からCO2の気泡が立ちのぼってくる。先に進むと、鮮やかな緑色をした海草がゆらゆら揺れているのが見えた。ふつう海草には藻類など小さな生物がびっしり付着して色がくすんでいるのだが、ここの海草にはそうした生物がいないのだ。噴出域から離れたところではよく見かけるウニも、ここでは見当たらなかった。ウニは環境の変化に敏感で、少しでも酸性化した水を嫌う。

 クラゲ、海草、藻類……。CO2濃度が最も高い噴出域周辺で見かけた生物は、せいぜいそのくらいだ。そこから数百メートル離れたところでも、多くの在来種が姿を消していた。

ボートに戻ってから、ホール=スペンサーが教えてくれた。「排水で汚染された港湾には通常、変化の激しい環境に適応できる強い生物が数種いるだけです。海に吸収されるCO2が増えれば、それと同じような状態になります」

酸性化の現状

 産業革命が始まって以来、石炭、石油、天然ガスなど化石燃料が大量に燃やされ、森林伐採が進み、5000億トン以上ものCO2が排出されてきた。過去80万年間で大気中のCO2濃度が現在ほど高くなったことは一度もない―これはよく知られた事実だ。

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