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特集

フェニックス諸島
復活する海

JANUARY 2011

文=グレゴリー・S・ストーン 写真=ブライアン・スケリー

平洋に浮かぶキリバスのフェニックス諸島。8年前、異常な海水温の上昇で白化現象を起こしたサンゴ礁が、徐々に息を吹き返してきた。

 調査船の錨(いかり)を海中に下ろすと、私たちは潜水機材を積んだ2隻の小型ボートに乗り換えて、目的地である礁湖へと急いだ。そこはフィジーから船で5日かかる、太平洋のただ中に浮かぶフェニックス諸島のカントン島。周辺海域を襲った海水温の急上昇という現象に、サンゴが生き延びているか、私たちは一刻も早く確かめたかった。2002~03年に発生したエルニーニョ現象の際、諸島周辺では水温が平年より1℃ほど高い状態が6カ月間も続いた。この異常な上昇により、サンゴ礁が大きな被害を受けたと、私たちは聞いていたのだ。事態がそれほど深刻でないことを祈りながら、私は礁湖の海底へと潜っていった。

 サンゴ礁のすぐ近くまで潜ると、死んだサンゴが辺り一面を覆っているのが分かった。10年ほど前に初めてフェニックス諸島を訪れたとき、こうした礁には石灰質の骨格をもつ石サンゴやオオシャコガイ、イソギンチャク、ウミウシ、そして、メジロザメの仲間のツマグロからナンヨウブダイ、バラフエダイにいたる、多種多様な生き物たちが生息していた。フェニックス諸島の海は長らく人の手で荒らされてこなかったため、こうした生き物たちも乱獲や環境汚染など、現代文明がもたらす悪影響とはほとんど無縁だったのだ。だが、そんな海も気候変動の影響からは逃れられなかった。

 こうした惨状に戸惑う一方、数多くの魚や色鮮やかなサンゴが廃虚と化した礁のあちこちに息づいているのを見つけて、勇気づけられた。

 10年前、フェニックス諸島が属するキリバス共和国の首都タラワで、政府の高官たちと面会したことがある。インド洋の自然保護に取り組む団体“コルディオ(CORDIO)”のデビッド・オブラとサンゲエタ・マングバイと漁業省で落ち合った。この2人の協力で、私は諸島周辺の海を組織的に調査することができたのだ。私は彼らと一緒に、漁業大臣や環境大臣らにサメやサンゴ、色鮮やかな魚の群れの写真を見せた。キリバスの町や村の近くに広がる、荒れ果てたサンゴ礁を見慣れた大臣やスタッフたちは、フェニックス諸島の手つかずの海を見て、驚くばかりだった。当時、漁業大臣だったテテボ・ナカラは、「わが国の海域での研究成果をわざわざ報告しにきてくれた科学者は、君が最初だよ」と言った。

広大な海洋保護区の誕生

 その後の政府高官との面会を通じて、私たちはキリバスが、礁に生息する魚やサメ、マグロなどの漁業権を日本や韓国、米国などに売ることで国家収入の4分の1(2000年当時で1700万ドル)を得ていることを知った。また、ある外国企業はキリバスの領海で捕獲した海産物の卸値の約5%を支払っていた。

 私はナカラに、漁業権を売る代わりに、魚を保護することで収入を得る方法をキリバス政府として検討してみる気はあるかと尋ねてみた。この方法なら、必要不可欠な収入を確保しながら、海の楽園を守ることができる。これを聞くとナカラはほほ笑み、「そのアイデアはキリバスにとって妙案だ」と言った。キリバスのアノテ・トン大統領はこの保護プロジェクトを熱心に支持し、実現に尽力してくれた。

 2006年、フェニックス諸島保護区(PIPA)の設置が公式に宣言され、その2年後には範囲を拡大して、40万8250平方キロに及ぶ広大な海洋保護区となった。保護区はできたものの、解決しなければならない問題は山積みだった。例えば、海洋生物を保護する対価をキリバス政府はどのように計算するのか? その資金はどこから確保するか?

 こうした問題に対処するため、私は環境問題の解決に取り組むNGO、コンサベーション・インターナショナル(CI)に助力を求めた。CIは2001年に地球保護基金を設立し、PIPAと同様の戦略で、熱帯雨林をはじめとする希少な生態系の保護に取り組んできた。この手法をヒントに、キリバス議会は米国のニューイングランド水族館やCI、キリバス政府から選出された理事で構成されるPIPA保護トラストを創設し、2500万ドルを目標に寄付金の募集を始めた。

 そして現在、私はデビッド・オブラなどの研究者とともにカントン島に戻り、エルニーニョ現象による被害の実態調査に取り組んでいる。礁の海底に生息していたサンゴはすべて白化して死滅していたが、そのほぼ半数はよみがえりつつあるようだった。予想をはるかに超える急速な復活だった。再生を可能にした理由は明らかだ。それは、おびただしい数の魚たちの存在だ。サンゴが白化すると、海藻が大量に繁茂し、サンゴの再生を妨げる。ところが魚たちがこうした海藻を餌にして、サンゴが窒息するのを防いでくれる。この海域では魚類が保護されているため、史上最悪の白化現象という惨事に見舞われた後でも、サンゴ礁は驚くほどの回復力を発揮できているのだ。

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