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特集

シリーズ 地球と、
生きる
奪われるマダガスカルの資源

SEPTEMBER 2010

文=ロバート・ドレイパー 写真=パスカル・メートル

アフリカの沖に位置し、独特の生態系を誇るマダガスカル島で森林の違法伐採が横行している。その背景には何があるのか。

長い竹竿(ざお)を繰りながら、袖なしのTシャツに短パン姿の青年が丸木舟でウニヴェ川をさかのぼっていく。川は浅く、流れは速い。頭上にはどんよりとした空が広がり、凄(すさ)まじい雨を降らせたかと思うと、雲の切れ間から一時太陽をのぞかせ、そして再び雨を降らせる。だが、レーモンという名のこの青年も、川岸に横たわるワニたちも、天気のことなど気にする様子もない。

 およそ3分に一度、レーモンは川を下る丸木舟とすれ違う。そのたびに彼は声をかけ、向こうも大声で返事をしてくる。彼らはみんな仕事仲間なのだ。マダガスカル島の熱帯雨林で違法に伐採されたシタンの丸太を、北東部のアンタラハにある貯木場に運んで金を稼いでいる。中国などで紫檀(したん)として珍重される木材だ。

 レーモンはこの仕事が好きではない。名前さえ知らない製材所のボスは、休まずに丸木舟を漕(こ)げ、と彼に命じる。賄賂(わいろ)を受け取った監視員が見逃してくれる時間は限られていて、それを過ぎるとまた金を渡さなくてはならない。それでも、切り倒された木を運ぶ作業はまだましだ。レーモンはかつて、森で木を切り出す作業をしていたことがあるが、危険があまりに大きくなったので、手を引くことにしたという。

 違法な伐採は何年も前から行われていたが、最近になって、その勢いが加速しているのだ。森には警察の目が届かず、多くのギャング団が入り込んでいる。2009年3月にマルク・ラヴァルマナナを大統領とする政府が倒れてからは、森林伐採はまさに、やりたい放題の状態だ。最大の買い手である中国の材木業者は、わずか数カ月の間に、島北東部の森林で伐採された180億円相当のシタンを輸入した。レーモンの知り合いが強盗団に襲われ、「こっちは30人、おまえは1人だ」と言われて、切り倒した丸太を奪われてしまったという。

 川の流れが緩やかになってきた。そこで、レーモンはマリファナを混ぜた紙巻きたばこに火をつけて一服した。マダガスカルでは、「ファディ」と呼ばれるタブーが何世紀も森を守ってきた。だから、倒れてきた木で頭を割られたとか、急流にのまれて脚を失ったといった事故が起こるたびに、人びとは「ご先祖様を怒らせてしまった。だから、こうしてお仕置きをされているんだ」と不安そうに話す。レーモン自身、神聖な森で木を切ってはならない、と長老たちから教えられたことがある。しかしその時、レーモンはこう言い返したという。「それじゃ、あんたは家族に木を食って生きろとでも言うのか」

 レーモンはかつて、アンタラハ郊外のバニラ農園で働き、家族を養っていた。そこは資源こそ豊富だが、それ以外はとても貧しい。

 20年前、当時のディディエール・ラツィラカ大統領はアンタラハが世界随一のバニラ産地であることを誇りに思い、高官を派遣した。「大きなビルが建ち並び、舗装道路が縦横に走っているとでも思っていたんだろう」と語るのは、長年バニラの輸出を手がけるミシェル・ロモーンだ。「高官の報告を受けて、大統領はとても失望したそうだ」。実際のアンタラハは大統領の想像とかけ離れた田舎町だったのだ。

 その後、サイクロンの度重なる襲来と市場価格の下落が原因で、アンタラハのバニラ産業はすっかり落ちぶれてしまった。いまは街全体がほこりっぽく、けだるげで、町の中心を走るタナナリヴ通りは欧州連合の資金援助で2005年にようやく舗装されたものの、そこを通るのは、おんぼろタクシーに、さびついた自転車、ニワトリ、それに、ヤギぐらいだ。歩行者は靴も履かず、雨が降ると「旅人の木」と呼ばれるオオギバショウの大きな葉を傘がわりにしている。

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