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特集

部族社会 葛藤の時

MARCH 2010

文=ニール・シェイ 写真=ランディ・オルソン

も数多くの先住民族が伝統を守って暮らす、エチオピア南部のオモ川流域。この地域にも、ダム開発や観光など、変化の波が押し寄せている。

 兄さんを殺した男に、いつ復讐(ふくしゅう)するんだい-。両手で顔をおおうと、2年近く前に亡くなった母の声がよみがえる。ドゥンガ・ナクワの育った村では、死者は身近な存在だ。亡きがらは遺族が暮らす小屋の下、わずか数十センチほどの乾いた土の中に埋葬されることになっている。

 死者は遺族の心にも寄り添っている。ドゥンガの耳には今も母の声が響く。いつ復讐するんだい。生前も母は折に触れてドゥンガに聞いたものだ。忘れようとしても、母に言われるたびに胸がうずき、居たたまれない気持ちになった。兄のコルナンが敵対する部族に殺され、ドゥンガが長男の務めを果たす立場だった。

 実は、ドゥンガの父親も同じ部族に殺され、兄が敵討ちをするはずだった。その兄が殺されたため、ドゥンガは二人分の復讐をする立場になった。彼の部族、カラ族の男たちは優れた射手として知られ、彼らは、はるかに規模が大きく、武器も豊富にもつニャンガトム族の侵攻に抗して戦ってきた。もし身内が殺されたら、復讐をするのが一人前の男として当然の務めだ。

 ドゥンガは小柄でほっそりした20代後半の青年だ。彼と会ったのは、カラ族の生活圏から歩いて数日かかる町の小さなレストラン。私にも兄弟がいると知って、ドゥンガは聞いた。「あなたなら、どうしますか?」。欧米社会では、返報は法廷に持ち込まれるが、ここエチオピアの辺境には、そのような制度は存在してこなかった。死者の恨みは、遺族が晴らすのだ。

 ドゥンガが生まれたドゥス村は、オモ川を見下ろす高い崖(がけ)の上にある、小枝と草で編んだ小屋が並ぶ小さな集落だ。オモ川はエチオピア中央部の高原から南西部へと80キロにわたって流れ下り、最終的にケニアのトゥルカナ湖に注ぐ。標高差が大きいため流れは速いが、平坦な地形が広がる国境近くでは、大きく蛇行し、川沿いに木々が茂り、ワニやカバなど川の生物も豊かになる。この一帯には、カラ、ムルシ、ハマル、スリ、ニャンガトム、ダサネッチなど、多様な部族が暮らす。その人口はおよそ20万人で、家畜を率いてサバンナを移動する牧畜民もいれば、氾濫(はんらん)原で耕作を行う農耕民もいる。

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