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特集

シリーズ 地球のいのち
華麗な生物の擬態

AUGUST 2009

文=ナタリー・アンジェ 写真=クリスチャン・ツィーグラー

ち葉にまぎれるカエル、樹皮にそっくりなキリギリス――。中米パナマの密林で、天敵の目をあざむく擬態の天才たちに迫る。

 シェークスピアの悲劇『マクベス』には、こんな場面がある。スコットランド王となった主人公マクベスは、魔女の「バーナムの森が城に向かって動いてこないかぎりは誰もお前を打ち負かせない」という予言に、安堵のため息を漏らす。「誰が森を動かせようか? 地に生えた根のいましめを解けと木に命令できようか?」

 マクベスは間違いなく、中米パナマにあるバロ・コロラド島に行ったことがなかったのだ。

 夜9時、漆黒の闇に包まれたバロ・コロラド島の森。ヘッドライトに照らされた光の中で、木の一部が“いましめ”を解かれ、自由にさまよっているように見えた。長さ10センチほどの小枝が頭上でブーンという音を立て、近くの枝に勢いよく舞い降りた。黄緑色の葉が茶色い落葉の山をひとしきり漁った後、別の山へゆっくり移動していく。

「擬態」生物に満ちた島

 もっとよく見ようと、私は動く小枝や葉に近づいた。それらが昆虫の擬態であることは百も承知だが、それでもこうした生き物の絶妙な“芸”や、真剣になりすます姿は驚かざるを得ない。“小枝”の正体はナナフシという昆虫だ。外側の鞘翅は細い溝のある樹皮にそっくり。円筒形の体と頭部には、本物の葉と茎の間にある芽や葉が落ちた跡のような部分もあちこちにある。小さな節とくぼみは、まるで小枝そのものだ。

 日中、擬態した昆虫たちはほとんど動かず、背景の植物に溶け込むため見つけるのは難しい。もちろん狙いはそれだ。視覚に頼って獲物を狩る目のいい捕食者に見つからないようにしているのだ。夕暮れになると、ナナフシや葉に擬態したキリギリスの仲間はそれまでの植物の変装を脱ぎ捨て、葉や地面に広がる腐植土の上で食事を始める。そのとき私たちは、照明の力を借りて昆虫たちがはるか昔に編み出した擬態という生き残り戦略を鑑賞できるのだ。

 変装したり、何かのふりをするのはドキドキすると同時に不安にもなる。子供のころは、制服などを着て大人のまねをする「ごっこ」遊びをするものだが、こうした体験を通じて、子どもは大人の役割を理解するのだ。

 また、米国のハロウィーンや中南米の「死者の日」のような趣向を凝らした仮装行事の多くは、心の奥底にある恐怖と結びついている。ハリウッド製のホラー映画には、ノルウェーの画家ムンクの絵画「叫び」を模した仮面や母親のカツラなどが登場したりもする。

 自然界に見られる変装に、私たちは魅せられることもあれば、不快に感じることもある。人間がどう判断しようと、確かなのは擬態は生き物にとって効果的な戦略であり、自然界にはありとあらゆるタイプのだまし方が山ほどあるということだ。こうした擬態生物をデータベース化する作業や、進化学や遺伝子学の観点から擬態について研究するのは始まったばかりだ。

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