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特集

星空をとりもどせ

NOVEMBER 2008

文=バーリン・クリンケンボルグ 写真=ジム・リチャードソン

では人類の5分の1が天の川を見られないほど、明るくなった夜の世界。氾濫する照明は動物の生活を狂わせ、人体にも変調をもたらしつつある。

 もし人間が夜行性だったら……。きっと深夜でもまわりがよく見えて、月や星のわずかな光だけで十分に活動できるだろう。

 だが、あいにく私たちは昼行性の動物だ。明るい太陽の光の下で生活するようにできている。それは進化がもたらした根本的な性質であって、私たちはふだんからそれを意識しているわけではない。しかし、なぜ人間は暗闇をどんどん光で満たし、夜の時間を減らすのかと考えると、「それは、人間が昼間に生きる動物だから」としか答えようがない。

 夜を明るくするのは、川をせきとめてダムを造るのと同じで、恩恵もあれば弊害もある。だがそのうちの弊害、いわゆる「光害」については、最近になってようやく研究が始まったところだ。光害の最大の原因は、照明の仕方のまずさ、つまり人工の光が照らす必要のない屋外や上空まで照らしてしまうことにある。そうして空間全体の明るさのレベルが上昇すると、私たち人間をはじめさまざまな生物のリズムを狂わせる。渡りや生殖、摂食といった生物の重要な活動もおかしくなってくるのだ。

 人類の歴史上で、「光害」などという概念が生まれたのはごく最近のことだ。たとえば1800年ごろ、当時世界で最大の都市だったロンドンの街に向かって月明かりを頼りに旅をしていたとしよう。街灯はまだなく、住民はろうそくや薪の明かりで暮らしていた時代だ。旅人はたぶん、街の明かりより、匂いでロンドンに近づいたことを知ったことだろう。

 一方で、現代の人類は「光のドーム」のなかで生活している。都市も郊外も、高速道路も工場も光をまき散らし、それらがあらゆる方向に反射、屈折して光のドームとなっている。ヨーロッパや米国、日本といった先進地域の夜は、そんな明るいエリアでいっぱいだ。

 南大西洋では、たった一つのイカ釣り漁船団がともすハロゲンランプが、宇宙から見ると、南米の大都市ブエノスアイレスやリオデジャネイロより明るく輝いている。

 大都市で夜空を見上げても、ぼんやりとしたオレンジ色のもやが広がるばかりで、星はほとんど見えない。今では、そんな夜が当たり前になった。金星の光が地面に影をつくるようなほんものの夜など、もはや体験できないどころか、記憶にもないだろう。だが都会を覆う薄暗いもやの上には無限の暗闇が広がり、惑星や銀河が無数に輝いているのである。

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