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特集

近代化に向けて
爆走する
インドの高速道路

OCTOBER 2008


 新品のスクーターに乗ったメナカが走っていくのは、「黄金の四角形(GQ)」と呼ばれる新しい高速道路だ。全長は5846キロ。人口の集中するデリー、ムンバイ、チェンナイ、コルカタの4都市を結ぶ。GQの建設はインド史上最大規模ともいえる公共事業の一つで、都市と農村の格差を縮め、社会の流動性を高める試みでもある。つまり、GQによってインド経済がフル稼働すれば、発展に潤う大都市の恩恵が、国民の半数以上が暮らす貧しい地方の村々にも及ぶと期待されているのだ。

 1998年、当時のアタル・ビハリ・バジパイ首相がGQプロジェクトを発表した。1947年に英国から独立を果たしたインドは、ガンジーやネルーといった、かつての指導者たちの理想を実現しようとした。そして、“南アジア社会主義”とでも言うべき政治体制を維持した結果、長らく経済停滞が続いていた。

 1990年代に入り、経済成長に熱心な政府の主導で、外資系企業に市場が開放された。英語が堪能で勤勉、それでいて欧米よりはるかに低賃金の若い労働力も後押しとなった。だが、劣悪な道路事情が国の近代化を妨げていることに指導者たちは気づいた。1990年代半ば、バジパイ元首相は側近にこう語ったという。「わが国の道路は穴だらけで、とても道路とは言えない」

 バジパイ元首相がGQプロジェクトを発表してから10年後、綿密に計画された世界でも比類ない高速道路網が完成しつつある。それは最先端技術の粋を集めた傑作として、21世紀のインドの価値を世界に示す存在となった。

 デリーにある高速道路の管理センターでは、48インチの巨大な液晶ディスプレイに、GQの美しい姿が映し出されていた。設計者たちはGQを、「地図に描かれた優美な曲線」「輝かしい最新鋭のマシン」と表現し、胸を張る。真新しい道路網はベルトコンベヤーのように、インド各地から絶え間なく人や物を運んでいる。

 高速道路が整備され、インド全体が活性化した。交通量は飛躍的に増え、何百万人もの労働者が地方から都市に流れ込んでくる。だがその一方、新旧の価値観が入り混じり、きしみも生じている。これまでのインドを支えてきたのは、建国の父ガンジーの理念に基づく文化や倫理観だ。質素な生活や兄弟愛、精神性を重んじる価値観がいま、脅かされつつある。

 国民の物欲は高まるばかりで、なかでも、自動車に対する視線は熱い。テレビコマーシャルや広告板では「わずか10秒で時速60キロ」という加速性能や、車体の色の豊富さが派手に宣伝される。だが、30代以上の世代はそんな自国の姿をなかなか受け入れられずにいる。

 「GQは、現代インドの象徴です。この国はいま、時速160キロでひた走っています」。こう語るのは、歴史書『インディア・アフター・ガンジー』の著者で歴史家のラマチャンドラ・グハだ。

 「赤信号で停止しているところを想像してみてください。窓を開けると、平行して別の道が延びています。すると、一人の老人が自転車に乗って、その道をのろのろ走ってきました。あなたがイライラしながら信号待ちをしていると、老人がこう話しかけます。『そんなに焦らないで、のんびり行きなさい。成長と豊かさだの、物質的な贅沢だの、そんなことで頭がいっぱいですよ』と。そう、自転車の老人はガンジー。彼はインド人の良心です。国がどんなに変わろうとも、私たちはガンジーの存在を無視することはできません」

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