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特集

虹色の狩人
バショウカジキ

SEPTEMBER 2008

文=ジェニファー・S・ホーランド 写真=ポール・ニックレン

大な背びれを広げたバショウカジキが、長く鋭い“鼻先”を巧みに使って獲物をとらえていく。メキシコ湾の青い海で、壮絶な狩りに出合った。

 メキシコ湾に浮かぶムヘーレス島の北東およそ80キロの沖合で、フィッシング・ガイドのアンソニー・メンディーリョは、グンカンドリの群れを目標にしてボートを走らせていた。思った通りだ。鳥たちの下には、魚の大群がいる。数百匹ものラウンド・サーディネラが一つの固まりになり、方向を変えるたびに日差しを浴びてきらきらと輝く。そして、群れの周りを、細長い影がいくつも動いていた。獲物を狙う狩人、バショウカジキだ。

 ニシン科サッパ属のラウンド・サーディネラ(学名:Sardinella aurita)とバショウカジキ(学名:Istiophorus platypterus)はともに回遊魚で、1月から6月にかけて、この海域へやって来る。大陸から流れ込む河川とメキシコ湾流のおかげで、エサが豊富にあるからだ。

 バショウカジキは、群れで移動しないことも多いが、狩りのときには力を合わせる。サーディネラの周囲を群れで泳ぎながら、少しずつ追い詰める。そして、巨大な背びれを広げて、交替でサーディネラの群れに突進していく。

 さらに獲物を怖がらせるのが、銀色を帯びた青い斑紋が走る、虹色をした体色だ。バショウカジキは普段はくすんだ色をしている。皮膚に黒色素胞という色素細胞があり、「それがブラインドのような役割を果たしている」と、オーストラリアのクインズランド大学で神経生物学を研究するカースティン・フリッチェスは話す。「ストレスを感じたり、興奮すると、黒色素胞の色素が収縮して、下にある金属的できらびやかな色が見えるようになる」という。

 体色の変化は、獲物を動揺させるだけでなく、仲間に「後ろに下がっていろ」と注意を促す効果もあると考えられている。衝突を防ぐためだ。「カジキの鋭くとがった“鼻”と泳ぐ速さを考えれば、これは重要です」と、フリッチェス。細長く伸びた上あごは、剣のように鋭く、狩りのときに獲物をたたきのめすほか、サメなどの敵と戦うときには武器になるのだ。

 追い詰められたサーディネラは、一丸となって、難局を乗り切ろうとする。互いの距離と動きを感じ取りながら滑らかに動いていくが、死に物狂いの“ダンス”がどれだけ魅惑的でも、捕食者から完全に身を守ることはできない。

 しばらくの間、サーディネラは海面に浮かんだ漂流物の影に隠れていたが、すぐに狩りは再開された。バショウカジキは鋭い上あごで獲物を強打し、次々とのみ込んでいく。そして、最後の一匹まで食べ尽すと引き揚げた。後には、サーディネラの鱗がキラキラと輝きながら、海の深みへと沈んでいった。

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