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特集

相克の島国
アイスランド

JULY 2008

文=マルゲリテ・デル・ジュディチェ 写真=ヨナス・ベンディクセン

極圏に接し、地熱と水力という自然エネルギーに満ちた国アイスランド。開発か自然保護かで、大家族のような31万の国民はもめにもめている。

 北極圏に接する島国、アイスランド。この国を語るうえでまず理解しなければならないのは、人口が少ないこと。わずか31万人と、日本なら東京の中野区くらいの規模だ。そのため、ここには島じゅうみんな知り合いかと思えるほどの独特で緊密な社会がある。

 夜遅くまでにぎやかな首都レイキャビクは、いかにも現代ヨーロッパらしい都市で、人口の大半が、この町周辺に集まっている。条件のよい仕事はここでしか見つからないし、歩いているとすぐ知り合いに出くわすので「浮気もできない」とこぼす人さえいる。

 「人間関係がとても濃くってね」と、眼鏡をかけた60代の新聞編集者は、両手をがっちり組んでそう言った。バイキング伝説の時代まで何十世代も先祖をさかのぼれるこの国の人びとは、いわば巨大な家族のようなもので、「だれかが何か言えば、みんなが批評する」と言われるほどだ。そんな隠しごとのできない社会だから、経済的な成長と環境保護をいかに両立するかといった微妙な政治の話題になると、人びとの物言いが途端に慎重になってしまう。

「溺死」

 2006年秋、アイスランドは転換点を迎えていた。人里離れた土地に完成したヨーロッパ最大級のダムで貯水が始まった。新しくできたアルミニウム製錬所に電力を供給する、水力発電用のダムである。だがそれは、一方で、周辺の自然環境に大きな変化をもたらしつつあった。

 このダムによって、草花は水に埋もれ、滝が落ちる美しい峡谷は干上がり、雁やトナカイの群れはいなくなろうとしていた。世界の環境保護団体は、自然を「溺死」させるがごとき行為だと非難した。当のアイスランド人はといえば、それが自国の経済発展に結びつくのか、はたまたヨーロッパ史上最悪の環境破壊をもたらすのか、よくわかっていなかった。

 自然保護か、開発か。現代のアイスランドをゆさぶる問題を読み解くには、この島のそもそものなりたちから話を始めなければならない。アイスランドという島は、大部分が居住に適していない。樹木もない岩だらけの土地は、牧羊ぐらいしか活用するすべがなかった。巨大な氷河に火山、間欠泉に延々と広がる溶岩台地と、まるで人を寄せつけそうにない風景が広がる。

 実は、この風景こそがアイスランドの宿命を物語っている。アイスランドの地面の真下では、地球を覆うプレートのうち、巨大な2枚がちょうど接している。つまり火山活動が活発な大西洋中央海嶺をまたぐかっこうになっているのだ。そのため過去500年間にこの島で噴出した溶岩は、地球全体の噴出量のなんと3分の1におよぶという。天然の温泉も豊富で、住宅やビルの暖房はほとんど地熱でまかなっている。一方で、地上では巨大な氷河から水量豊かな河川が数多く流れ出している。地中の激しい活動がもたらす熱と、地上を力強く流れる冷たい川が生みだすエネルギー。アイスランドは、地熱と水力という、世界中の国々が渇望する再生可能エネルギーの宝庫なのである。

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