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特集

ゴリラ殺害事件の真相

JULY 2008

文=マーク・ジェンキンス 写真=ブレント・スタートン

年、コンゴのビルンガ国立公園で7頭のマウンテンゴリラが殺害された。犯人の目的は何か? 戦禍の残る密林に潜入し、事件の真相を追った。

ゴリラ殺害事件の真相
写真家のブレント・スタートンとコラムニストのマーク・ジェンキンスが、コンゴ民主共和国のビルンガ国立公園で起きたゴリラ殺害事件の真相にせまる。

動画翻訳

マウンテンゴリラは世界にわずか700頭しかおらずすべてビルンガ山地周辺に生息しています
2007年夏 アフリカのビルンガ国立公園で7頭のマウンテンゴリラが殺害された
事件の写真を見て世界中の人々が憤りをおぼえた

ゴリラ殺害事件の真相
(声:マーク・ジェンキンス コラムニスト)
事の始まりは昨年起きたゴリラ殺害事件でした
写真家のブレント・スタートンと私は事件の真相を探るため 現地に足を運びました
事件に先立ち
ビルンガ国立公園の管理責任者ポーリン・ンゴボボは公園のレンジャーの一部が違法行為に携わっていると感づいた
調査を進めるうちに ンゴボボの上司であるオノレ・マシャギロに容疑がかけられた
ンゴボボの調査により暴力 貧困 汚職が複雑に絡み合う状況が明るみに出ることになる
(声:ブレント・スタートン 写真家)
今回の特集の主な要素は公園のレンジャーが武装組織と相対する構図と
ビルンガ国立公園をむしばむ木炭の違法取引です
コンゴ内戦によって難民となった人々は貧困にあえぎ キャンプ生活を送っていました
彼らが生物系に甚大な被害を与えるなかレンジャーたちは公園の保護活動を行っています
(声:ブレント・スタートン 写真家)今回の取材で最も困難だったのは
すべての状況を理解し 人々の信頼を得て事件の核心部分に迫ることでした
取材現場は 多くの要素が入り組んだ複雑な環境でした
650人のレンジャーがビルンガ国立公園と公園内にすむゴリラを保護している
公園のレンジャーたちはICCN(コンゴ自然保護協会)に所属しています
彼らの多くはビルンガ地域に詳しく15~20年以上レンジャーとして働いており
数々の紛争や反乱を乗り越えてきました
レンジャーたちは信じられないほど献身的です
彼らの平均月収はわずか5~10米ドルにすぎません
これまでに多くのレンジャーが命を落としました
さまざまな武装組織や密猟者開発計画者から公園を守ろうとしたためです
公園内のゴリラ生息域はローラン・ンクンダ将軍率いる反政府勢力CNDP(人民のための防衛民族議会)が掌握しており レンジャーたちはゴリラの保護に手こずっている
(ローラン・ウクンダ 反政府勢力CNDPの指導者)
2007年7月以降――
反政府勢力の指導者ローラン・ンクンダと彼が率いる武装組織CNDPの兵士たちは
ビルンガ国立公園内のゴリラ生息域を掌握しています
ンクンダ将軍はこの地域に現れて土地を奪い取ってしまいました
彼の軍隊は 非常によく訓練されており完全武装しています
CNDPは フツ族の武装組織FDLRとの対決を目標に掲げて活動していますが
彼らが占領しているのは世界でも希少な霊長類の生息地です
彼らが生息域にいることでゴリラたちの安全を脅かしているのです
今回の特集の核心となるのは調理や暖房に使用されている木炭の存在だ
木炭の原料となる硬木はビルンガ国立公園内にあるがこうした硬木を伐採することは違法である
現地には木炭マフィアが存在します
国立公園内の原生林の伐採は違法ですが人々は大変な苦境にあるため
木炭の需要があることに気づくとこっそり伐採するようになったのです
彼らは古い硬木を伐採して 深い穴を掘り
その硬木を軟木と一緒に積み重ね一週間ほど焼きます
ジャングルの真ん中に巨大なかまどが築かれています
できあがった木炭は人々が担ぎこっそりと公園の外へ運び出すのです
近くの都市へ通じる唯一の道路上には検問所が設けられています
通過するトラックをすべて一旦停止させレンジャーたちが積荷を調べるのです
木炭を発見したら押収します
多くの人々にとって木炭の問題は非常に重要です
調査を進めていくうちにポーリン・ンゴボボは彼の上司が木炭の違法取引の元締めだと確信をもつようになった
ンゴボボの信用を傷つけるために ゴリラ殺害を企てた罪により上司オノレ・マシャギロは 起訴されることとなった
「……マシャギロはゴリラ殺害の罪を私に負わせようとしました木炭の違法取引を続けるには私がじゃまだったのです」― ポーリン・ンゴボボ
今回の特集に登場する人物のなかでンゴボボは数少ない善人の一人です
彼は善良な人間であろうとして大変な目にあってきました
コンゴでは良い人間であることは危険を伴います
(オノレ・マシャギロ 元ビルンガ国立公園管理責任者)
マシャギロは 木炭取引の手助けをした罪で裁判にかけられるのを待っています
また 仲間とゴリラ殺害を共謀した罪状でも起訴されています
最終的に彼が刑務所に入るかどうかは全く分かりません
(公園内で発見されたかまどを壊すレンジャーたち
裁判の利点は人々の注意を喚起できることですね
少なくとも 昨年起きたゴリラ殺害事件がこっそり葬り去られることはありません
保護活動は 長い目で見ればすべての人にとって必要なのです
ポーリン・ンゴボボは身の安全のためキンシャサへ転勤となり 新たな職務に任命されるのを待っている
オノレ・マシャギロは起訴されたものの彼の裁判は延期されており このまま行われない可能性もある

虐殺者たちはじっと日没を待った。

 2007年7月22日。コンゴ東部、ビルンガ山地のミケノ火山中腹の森に、自動小銃を手にした一味が身を潜めていた。彼らの標的は、12頭のマウンテンゴリラの群れ、ルゲンド・ファミリーだ。ビルンガ国立公園を訪れる観光客に親しまれ、公園を監視するレンジャーたちに愛されてきたゴリラたち。群れを率いるのは体重225キロのシルバーバック(成熟した雄)のセンクェクェだ。

 群れのあるじは人間の気配に気づいたはずだが、人間の姿は見慣れていたので、とくに警戒しなかったのかもしれない。近くにあるブキマ村の宿舎にいたレンジャーたちが銃声を聞いたのは、夜8時頃だった。翌朝、パトロールに出たレンジャーが、3頭の雌ゴリラの死体を発見した。1頭の子どもがおびえながら、死んだ母親のそばでうずくまっていた。翌日、センクェクェの死体も見つかった。3週間後、群れの雌がもう1頭殺されているのが発見され、その子どもも死んだとみられている。

 この事件の1カ月前には、別の群れの雌ゴリラ2頭と赤ん坊が襲撃されたばかりだった。レンジャーが発見した時、1頭は後頭部を撃たれて倒れていた。赤ん坊はまだ生きていて、死んだ母親の乳房にしがみついていたという。もう1頭の雌はいまだに見つかっていない。

 2カ月足らずのあいだに、ビルンガ国立公園のゴリラが7頭も殺されたことになる。村人たちが巨大な雄ゴリラの遺体を運んでいる報道写真は、世界のメディアに取り上げられ、人々に衝撃を与えた。この写真を撮影したブレント・スタートンが、今回の私の取材にも同行してくれた。

 ゴリラは賢くておとなしい動物だ。レンジャーたちが「われらが兄弟」と呼び、大切にしているゴリラを殺したのは誰か? さまざまな推測が飛び交った。ビルンガ地域では、敵対する二つの武装組織と政府軍が三つどもえの衝突を繰り返し、公園内には数千から数万もの重武装の兵士が潜む。それに加えて、密猟や違法な炭焼きに従事する者たちもいる。

 公園周辺には、自給自足の農業でかろうじて生き延びている人々が暮らしている。大規模な難民キャンプがいくつもあり、殺りくから逃れてきた人たちであふれかえっている。長引く紛争で混乱に陥ったこの地域で、それまでゴリラが無傷でいたこと自体が、奇跡に近い。

 それにしても、いったい誰が、何のために、ゴリラを殺したのか。

 ビルンガ国立公園は、1925年に創設されたアフリカ大陸最古の国立公園だ。約80万ヘクタールの敷地には豊かな自然が広がっている。

 アフリカ大陸の国立公園のなかで、ビルンガにはもっとも多様な哺乳類や鳥類、爬虫類が生息していて、原産種も一番多いという。環境保護団体「ワイルドライフ・ダイレクト」のエマヌエル・ド・メロド理事長はこう語る。「ビルンガには世界最大級の溶岩湖があります。標高は900~5000メートル、高山植物に覆われた山岳地帯から沼地、熱帯森林、サバンナなど、実に多彩な自然環境を擁しています。地球上でもっとも素晴らしい国立公園と言っても、決して大げさではありません」

 マウンテンゴリラは、世界におよそ720頭いるといわれている。その約半数がウガンダのブウィンディ原生国立公園に生息し、残りの半数はそこから24キロ南のビルンガ山地に生息している。火山が連なり、ルワンダ、ウガンダ、コンゴの3カ国の国境をまたいで横たわるビルンガ山地には、三つの国立公園がある。コンゴのビルンガ国立公園はその一つで、200頭ほどのゴリラがすんでいる。

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