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特集

地球にひとつの生命
孤高の王者
ユキヒョウを追う

JUNE 2008

文=ダグラス・H・チャドウィック 写真=スティーブ・ウィンター

央アジアの山岳地帯に暮らすユキヒョウ。生息数が激減し絶滅が懸念されるが、インドやモンゴルでは地域住民が保護活動に乗り出した。

孤高の王者 ユキヒョウを追う
山岳地帯に潜んでなかなか姿を現さない伝説の野獣、ユキヒョウ。その姿を写真家スティーブ・ウィンターがどのように撮影したのか、取材の裏側を見てみよう。

動画翻訳

3万フレームにもおよぶ写真を撮影した これは彼の取材の記録である 孤高の王者ユキヒョウを追う
今回の取材は高地の険しい山中で行われたため肉体的に非常にハードでした
まるで月にいるような景色が広がっています
ユキヒョウはとても用心深くなかなか姿を現しません
(ナレーター: スティーブ・ウィンターナショナル ジオグラフィック写真家)
私たちは双眼鏡を使いユキヒョウの姿を探しました
きっとユキヒョウも私たちの様子を眺めていたと思います
ユキヒョウは生息数わずか3500頭
標高5500メートルの高地で生活し
カメラ嫌いで有名である

撮影の準備
取材にあたり 寝袋や暖かい衣類など33個もの荷物を持って行きました
インドのデリーから飛行機に乗りラダック地方の中心地レーに入りました
(スティーブ・ウィンター ナショナル ジオグラフィック写真家)ここが今回の取材のスタート地点です
数日間滞在して標高3600メートルの高地に体を慣らします
道路が舗装されている地点までトラックやジープに荷物を積んで移動し
その先はすべて馬の背に載せて運びます
私たちはセンサー付きカメラ14台とキャンプ道具一式を運び込みました
食料は一部を米国から持参し残りはインドで調達しました
気温は夜になるとマイナス30℃まで下がります
長年ジャングルで仕事をしてきた私にとって今回の取材は大きな環境の変化でした
取材場所を決める際には地元の人たちの力を借りました
彼らはユキヒョウ保護団体と一緒に働いていてユキヒョウが現れる場所を把握しているのです
ユキヒョウの新しい足跡です雌のようですね
ここ2日くらいのものでしょうなわばりのしるしに尿をかけ
ています
地元の人々の助けを借り――
ユキヒョウが現れそうな場所にカメラを設置しました
通り道さえ分かれば センサー付きカメラでユキヒョウの姿をとらえられます
ふたをしてロープを引っ張ったら準備完了だ
ユキヒョウを撮影する

“においづけ”行動の跡があればそれがユキヒョウの通り道です
ユキヒョウは こうした通り道では 狩りをしないかもしれませんが
彼らがにおいづけをする場所は見ることができます
ユキヒョウは体長の7倍の高さまで跳躍でき
一晩で40キロ移動することもある
大きな目でかすかな光をとらえ暗闇でも獲物を仕留める

ユキヒョウ現る
カメラに興味を示すユキヒョウの姿です背後には山道が見えます
フラッシュが2回光った後ユキヒョウはこの場を立ち去りました
これは高い山の尾根でユキヒョウがにおいづけ行動をしている写真です
尿をふりまき 自分のしるしを残して
他のユキヒョウたちに自分のなわばりだと知らせるのです
これは私にとって大切な写真ですたった一枚撮るのに5カ月半かかりました
背景の山々とユキヒョウが近く見える点が非常に気に入っています
とても親密な気持ちを覚えるんです手を伸ばせば毛皮に触れられる気がします
もし本当に触れたらきっと噛まれるでしょうけどね
ユキヒョウはこのような土地に生息しています
ユキヒョウは獲物を追うとき以外開けた場所を移動することはありません
バーラル(ヒマラヤ・チベット周辺に生息する野生のヒツジ)ユキヒョウは岩場に身を潜め獲物を狙います
こんなとき役に立つのがネコ科の動物のなかで最長の尾です
獲物のバーラルが植物を食べに来るとほとんど垂直な岩場を駆け降り追いかけます
その際に長い尾でバランスをとるのです
ユキヒョウは絶滅の危機にさらされています
2005年 チベット仏教の指導者ダライ・ラマはヒマラヤに生息する種を保護し
地球上のすべての生命を尊重するよう呼びかけました
彼はユキヒョウの保護を訴えています

 「ユキヒョウの動きは、山肌の雪がじわじわと解けていくさまを思わせます」。ニューデリーを拠点に活動する生物学者、ラグナンダン・シン・チュンダワトはこう評する。「その動きはあまりにゆっくりで、ちょっと見ただけでは動いているのかどうかすら、なかなかわかりません」。今この瞬間にも、完璧に気配を殺したユキヒョウが、すぐそばを歩いているのかもしれない。だが、どこにいるのか? そもそも、このヒョウは何頭くらい生き残っているのだろうか。

 ユキヒョウの目撃回数で、チュンダワトの右に出る者はいない。インド北部の山岳地帯にあるヘミス国立公園で、彼は5年にわたってユキヒョウをつぶさに観察してきた。取材に訪れた日の夕方、広さ約3400平方キロの公園内の険しい峡谷に、私とチュンダワトはキャンプを設営した。標高3500メートル近い高地である。

 季節は6月。ヒツジの仲間のバーラルが繁殖期を迎えていた。石ころだらけの斜面を移動するバーラルの群れを横目で見ながら、上にそびえる崖にも絶えず目を配る。ユキヒョウは険しい岩場で獲物を待ち伏せ、頭上から襲いかかることが多いのだ。もっとも、過大な期待は抱いていなかった。この崖は彼らの狩りに絶好の地形だが、チュンダワトですら、ユキヒョウを目撃したことはこれまでに数十回しかない。

 日が傾いて影が伸び、夕闇が濃くなった。私は夕暮れの山をゆっくりと下りてくるユキヒョウの姿を思い浮かべた。金色の目を見開いて身をかがめ、山肌をすべるように移動するしなやかな獣。斑紋の散った体は梢ごしの月光を浴びて、凍てつく大地の色に染まるだろう。

 ユキヒョウの鼻先から尾の付け根までの体長はおよそ1~1.3メートル。ネコ科動物のなかでもとびきり立派な長い尾は、自在な動きでライバルを威嚇したり、交尾の相手の気を引いたりするほか、ふさふさのマフラーよろしく体に巻きつけて暖をとり、厳しい寒さをやり過ごすのにも役立つ。だが、尾の最大の役割は、高低差が数百メートルにも及ぶ起伏の激しい生息地で、体のバランスをとることにある。

高地に暮らす“忍びの名手”

 山々はすっかり闇に沈んだ。ユキヒョウを見ることなく一日が暮れても、落胆はしなかった。このヒョウを見つけるのは、至難の技なのだ。

 ユキヒョウ(学名Uncia uncia)はネコ科の大型肉食獣で、面積約250万平方キロ、12カ国にまたがる広大な生息域にひっそりと暮らす。ライオンやトラのように大声でほえて存在を誇示しないのは、そのための発声器官をもたないから。のどをゴロゴロ鳴らしたり、「シャーッ」と威嚇したり、ネコのような鳴き声や低いうなり声を上げるくらいがせいぜいだ。

 音も立てずに単独行動する“忍びの名手”で、日没から明け方までが主な活動時間帯という夜行性。しかも生息地はヒマラヤ山脈やチベット高原、パミール高原、天山山脈など、世界でも指折りの峻険な高山地帯ばかりだ。

 寒冷な高地に暮らすユキヒョウは、もともと生息密度が低かった。だが、美しい毛皮を狙われておびただしい数が殺され、この100年間で激減した。1975年以降はワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)に基づいて表向きは保護されているが、毛皮目当ての密猟は後を絶たず、今も闇市場で高値で取引されている。

 ユキヒョウに家畜を襲われる被害が増えたために目のかたきにされ、わなや落とし穴、毒物で駆除されることも増えている。現在の生息数は推計で4000~7000頭ほど。実際には3500頭にも満たないと懸念する専門家もいて、100年前の半数以下に落ちこんでいるようだ。

 実のところ、密猟で追い詰められているトラや、野生の生き残りがもはや30頭前後のアムールヒョウなど、大型のネコ科動物の大半は絶滅しかけていて、ユキヒョウも例外ではない。だが、明るいニュースもある。生息地の一部で住民がユキヒョウの保護活動に乗り出したのだ。とりわけ、インドとモンゴルの一部地域では、積極的に保護に取り組んでいるという。そうした努力は、どの程度実を結ぶだろうか?

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