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特集

宇宙を解き明かす
神の素粒子

MARCH 2008

文=ジョエル・アッケンバーク 写真=ペーター・ギンター

宙を満たす物質の、いちばんの元になる「素粒子」。存在が予想されていながら、いまだ見つかっていない“神の素粒子”を求めて、フランス・スイス国境の地下で巨大な加速器が動き始めた。

物質の基になる、より小さい粒子へ

 フランス東部、スイスとの国境に近い美しい村クロゼ。その村の地中100メートルほどの深さに、得体の知れないトンネルが埋まっている。直径は3メートル。ゆるやかに円弧を描いて延びるそのトンネルを進むと、数キロメートルおきにケーブルやパイプ、電磁石などに埋めつくされた巨大な構造物が現れる。まるでジェームズ・ボンドのスパイ映画に出てくる秘密基地だ。

 技術の粋を集めたこの施設の正体は、「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」と呼ばれる粒子加速器。宇宙が何でできているかを解明し、物質存在の背後にある基本原理を見いだそうとする最新の科学施設だ。

 2008年中に、全周27キロメートルにわたる地下トンネルで、2本の粒子ビームを反対向きに加速する実験が始まる。トンネルには、冷却された円筒状の電磁石が1000個以上つながっていて、粒子ビームを誘導する。ビームの束は4カ所ある装置で細められ、光速に近いスピードで正面衝突する。

 すべてが計算どおりにいけば、激しい衝突によって物質は大量のエネルギーに変換され、そのエネルギーからさまざまな粒子が生成されるはずだ。これまで観測されたことのない粒子も見つかるだろう。粒子と粒子をぶつけ、そこから何ができるかを観測する―これこそ素粒子実験の真髄である。

 この衝突によって生まれる粒子の「残骸」を詳しく観測し、解析するのは、トンネルに設置された巨大な実験装置だ。とにかくどれも大きい。最も背の高い装置ATLAS(アトラス)は7階建てのビルほどもあるし、最も重い装置CMS(コンパクト・ミューオン・ソレノイド)は東京タワー3個分もの重さがある。「小さいものは、大きい装置で探せ」というのが、研究母体であるCERN(欧州合同原子核研究機関)のモットーではないかと思えるほどだ。

 これだけ大規模な研究プロジェクトになると、危険はつきものだ。加速された粒子ビームはどんなものにも穴を開けてしまう可能性がある。なかでも危ないのは加速器そのものだ。すでに小さな事故は起きている。2007年3月に行われた動作試験で、加速器の電磁石がそれを支えるフレームから外れてパイプなどを破損、24個の電磁石に改良が加えられることになった。LHCの関係者は、こうした装置の不備についてはあまり語りたがらない。世間の人々は何か問題が起こったと聞くと、すぐに行き過ぎた心配をしてしまうからかもしれない。

 だが、もっと現実に起こりかねない不安がある。物理学者たちが探している物体が、この加速器を使っても見つからないことだ。これだけ大きな装置を造ったからには、それに見合った発見、成果がなければならない。新聞の一面を飾るほどの大発見が必要なのだ。

 ただし、どれほど大規模な実験を行ったところで、物質とエネルギーにまつわるすべての疑問が解けるなどということは、けっしてありえない。これまでおよそ100年にわたる素粒子物理学の研究によって得られた教訓は、宇宙はそう簡単に秘密を明かさないということだ。それほど、宇宙の謎を解くことは、途方もなく難しい挑戦なのである。

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