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特集

北米大陸の王冠
氷河をいただく
自然公園

FEBRUARY 2008

文=ダグラス・H・チャドウィック 写真=マイケル・メルフォード

国とカナダにまたがるウォータートン グレイシャー国際平和自然公園。温暖化の危機が忍びよる「北米大陸の王冠」の雄姿を写真でつづる。

 何もかもが輝き、力強く、原始の姿をとどめるところ。グレイシャー国立公園からは、天にも手が届きそうだ。

 米国モンタナ州の中央部からカナダ南部にかけて約400キロにわたり、ほぼ途切れることなく続くロッキー山脈。目に映るあらゆる景色をいっそう際立たせるその輪郭を、人は「北米大陸の王冠」と呼ぶ。そのうち、グレイシャー(氷河)国立公園が位置するのは、南はモンタナ州の原野から、北はカナダとの国境にはさまれた地域。国境の向こうには、カナダのアルバータ州とブリティッシュ・コロンビア州が広がる。

 タイリクオオカミやオジロライチョウが生息するこの地では、嵐が津波のごとく大陸分水嶺を襲い、イヌワシは風に乗る。樹齢200年にもなる奇妙によじれた木々は、オオツノヒツジがやっと隠れるほどの高さしかない。せっかちな野の花が雪の中から顔をのぞかせ、景色に彩りを添える。日の出前や日没直後には、バラ色の光が太古の氷を染め、年老いて毛先が銀色になったクマたちも姿を見せる。すばらしい景観に抱かれて尾根を歩けば、地球の息吹との、魂を揺さぶられるような対話が始まる。

 アカシカはやぶを踏み分け、シロイワヤギは断崖を駆けあがるが、山を登るなら“クマのエレベーター”をたどるのが一番だ。真っすぐ切り立ったこの小道では、雪崩が森の木々を押し流し、開けた草原が育つ。夏がどれほど暑く長くても、ここではある高度を超えるといつまでも春のような気候だ。雪が解けて、水分をたっぷり含んだ土から芽吹いた植物の新芽を求めて、ハイイログマ(グリズリー)が暖かい季節に数カ月かけて、谷底から山頂に移動してくる。クマのエレベーターと言われるゆえんだ。

 標高3000メートルに達するグレイシャー国立公園の峰々は、モンタナ州の4000平方キロの土地を占め、762の湖をその懐に抱いている。最大の湖の一つ、アッパー・ウォータートン湖は、アルバータ州側でグレイシャー国立公園と隣りあうウォータートン・レイクス国立公園にまたがっている。この二つの国立公園は、1932年に世界初の国際平和自然公園に指定された。どちらも1970年代に生物圏保護区に指定され、1995年には「ウォータートン グレイシャー国際平和自然公園」として、ユネスコの世界遺産リストに登録されている。

 グレイシャー国立公園の95%は手つかずのまま保たれているが、遊歩道と登山道が一体化して整備された1000キロ以上のトレイル網をたどれば、最も高い稜線まで行くこともできる。米国内の北端部まで行く三日間のトレッキングを終えた私は、グレイシャー国立公園を横断する唯一の車道ゴーイング・トゥ・ザ・サン・ロードに出て、自分の車のところまでヒッチハイクで戻ることにした。道は山中の小道のように曲がりくねっている。しばらくして、バンに乗った親切な家族が私を乗せてくれた。1分もたたないうちに母親が叫んだ。「見て、滝が三つも! カメラを持っているのは誰?」。やれやれ。

 「もっと高い滝が見えた!」と、100メートル進んだところで娘が声を上げ、写真撮影のために再度車を脇に寄せる。車を出発させて30秒後、負けじと弟が言う。「右にもあるよ!」

 道路は除雪作業が済んだばかりで、尾根の風下にところどころ高さ30メートルほどの吹きだまりが残っている。だが今はもう6月で、空気は暖かくさわやかだ。例年通り、夏の訪れとともに、この地は山頂からの洪水に見舞われる。あらゆる岩壁、岩棚、懸谷から水が滝のように流れ落ちるのだ。「パパ、パパ、車を止めて!」

 親切な家族との道中は、それまで経験したことのないほど遅々として進まなかった。しかし、彼らとともにながめてみると、自分の庭のように知りつくしているはずのこの地で、雪解け水が流れる光景を初めて目にしたかのように感じた。日が長くなり、柔らかい日差しに包まれて、半年以上ものあいだ固まっていた雪塊が解ける。増水した川は北米全域を流れ、太平洋、メキシコ湾、ハドソン湾へと注ぐ。

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