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特集

シリーズ「地球の悲鳴」
人と動物を襲う
感染症

NOVEMBER 2007

文=デビッド・クアメン 写真=リン・ジョンソン

ボラ出血熱や鳥インフルエンザなど、人にも動物にもうつる感染症が世界の脅威となっている。ここにきて急激に流行したのはなぜか。ウイルスの運び屋の正体とは? 実際のケースをたどりながら、その謎に迫った。

 オーストラリア東部のブリスベーン郊外にヘンドラという古い町がある。町では競馬場や厩舎が目立ち、競馬新聞を売るスタンドが立ち並び、カフェには馬にちなんだ名前がついている。歩いていて目につくのは、調教師やジョッキー、競馬観戦に来た人たちばかり。

 1994年9月、そんな競馬の町で恐ろしい病が競走馬を襲った。最初に犠牲となったのは、妊娠中の牝馬だった。町はずれの牧草地にいるときに異常が現れ、厩舎に連れ戻されて治療を受けたものの、症状は悪くなる一方だった。調教師と厩舎長、獣医の3人がかりの努力もむなしく、牝馬は原因不明のまま息を引きとった。毒ヘビにでもかまれたのか? それとも、雑草が生え放題の牧草地で毒草でも食べたのだろうか?

 そんな憶測も、2週間後には消えた。同じ厩舎にいた馬たちが、次々に同様の症状を示しはじめたのだ。これは毒ヘビでも毒草でもない。何かの感染症のしわざだ。

 馬たちは、高熱、呼吸困難、顔の腫れといった症状を見せたほか、動作がぎこちなくなった。中には、鼻や口から血の泡を出すものもいた。獣医の懸命の治療にもかかわらず、数日間でさらに12頭が死んだ。

 そのうちに、調教師と厩舎長も病に倒れた。同じ環境にいた獣医は、細心の注意を払っていたからか、体調を崩すことはなかった。調教師は入院したが、腎臓の機能が停止し、自力で呼吸ができなくなって、数日後に亡くなった。一方、厩舎長のレイ・アンウィンは入院せずに、自宅で誰にも知らせず高熱と闘いつづけ、幸いにも一命はとりとめた。

 私は、昨年ヘンドラを訪れた際、生き残った二人に話を聞くことができた。アンウィンは「ふだん愚痴を言ったりはしないんだが、あれ以来、体調がどうもよくない」と言う。獣医のピーター・リードは「信じられない速さで次々に馬に感染していった」と語る。最もひどいときには、わずか12時間のうちに7頭が死んだ。その中には無残な姿で力尽きていった馬もいれば、安楽死させられた馬もいた。

 ある馬は暴れ方があまりにも激しかったので、リードがそばに寄れず、安楽死させるための注射も打てなかった。「あんなことをするウイルスは見たことがなかった」と彼は言う。

 検査の結果、ヘンドラの馬と男たちは未知のウイルスに感染したことがわかった。当初、はしかと近縁の馬のウイルスという意味で馬モービリウイルスと呼ばれていたが、その後、ウイルスの特異性が考慮され、発生した場所にちなんで「ヘンドラ」と名づけられた。

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