/2007年11月号

トップ > マガジン > 2007年11月号 > 特集:トンガに迫る決断のとき


最新号

ナショジオクイズ

この男性はハイチの露天商ですが、何を売っているのでしょう?

  • 洋服のボタン
  • お菓子

答えを見る

ナショジオとつながる

メールマガジン無料登録(週2回配信)

メルマガ登録の詳細はこちら


特集

トンガに迫る
決断のとき

NOVEMBER 2007

文=マシュー・ティーグ 写真=エイミー・トンシング

平洋最後の君主国、トンガ。長らく王族と貴族が絶対的な権力を行使してきたが、国民の間では民主化を求める運動が激しさを増している。全国王ツポウ4世が死去する直前の、現地の様子をレポートする。

 衛兵たちはのろのろと腰を上げ、ヘルメット型の日よけ帽をかぶった。うつむきかげんに立っているので、帽子のつばで顔が見えない。一人は靴の爪先で砂利をもてあそんでいる。まるでそこに弁解の言葉が隠されているかのようだった。「悪いね」とその衛兵は言った。「もう少し時間がかかりそうだ」

 2006年夏。トンガの皇太子から謁見を認めるという連絡を受けたのは、その日の朝のことだったが、すでに太陽は高くのぼっていた。皇太子の住まいは、トンガ諸島、トンガタプ島の高い丘の上にあった。トンガは世界でももう数少ない、そして太平洋では最後の君主国だ。時の国王はタウファアハウ・ツポウ4世。国民に愛されていたが、もう年老いて、数週間前にニュージーランドの病院に入院していた。そして、息子である皇太子が王位継承の準備を始めた。

 皇太子ツポウトアは海に近い王宮ではなく、丘の上に広がる要塞のような邸宅で暮らすのを好んでいた。トンガの人々はそこを「お屋敷」と呼ぶ。大理石の柱が並ぶネオクラシック様式の、なんとも立派な豪邸だ。この日、衛兵たちは皇太子が所有する車を洗っていた。車はジャガーと洒落たスポーツタイプの多目的車、そしてなぜかロンドンで見かける黒塗りのタクシーだ。衛兵が説明するには、皇太子殿下は英国でタクシーをご覧になり、1台お持ち帰りになったという。購入した理由は誰も知らなかったので、私は直接殿下に尋ねてみると約束した。

 お屋敷から伸びる真っ白な広い道は丘を下り、噴水や衛兵の詰め所を過ぎて、首都ヌクアロファを走る道路につながる。暑くてほこりっぽいヌクアロファには、トンガの人口10万人の3分の1が暮らす。丘を下り、町へ続く道路脇では、女性がヤシの葉でほうきを作っていた。できあがったほうきは、別の品物と交換する。この国の経済は、物々交換が中心なのだ。

 道路を進むと、食べ物を売る黄色い屋台が見えてきた。「偽物ではない、本物の民主主義を」という標語が掲げられている。そして広大な王族墓地では、間近に迫った国王の弔いの準備が進められていた。さらに遠くにあるゴミ捨て場では、不法居住者たちが金目のものを探してゴミをあさっているが、その風景は皇太子のお屋敷からは見えない。

 いまトンガでは、国民の間で改革を求める運動が起きている。先進諸国は世界各地に民主主義を根づかせようと苦労しているが、トンガでは草の根の民主化運動が芽ばえている。いまやイデオロギーは、地理的な隔たりなどものともせずに浸透する時代なのだ。

1Next


ナショナル ジオグラフィック日本版 バックナンバー