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特集

海のユニコーン
イッカク

AUGUST 2007

文・写真=ポール・ニックレン

角獣の角のような長い「牙(きば)」をもつ北極海のクジラの仲間、イッカク。だが今、この牙目当ての乱獲によって、種の存在が脅かされつつある。

 北極海の冬は、暗く、長い。カナダ北東部、バフィン島に面したランカスター海峡では、気温がマイナス40℃にもなる極寒の日々が何カ月も続く。だが、やがて海峡を覆う氷が割れはじめ、あちこちに水路ができてくると、春の訪れを告げるように、独特の風貌をした小型のクジラが姿を現す。海のユニコーン、イッカクだ。

 昔から、イッカクは夏を過ごすためにこの海にやってくる。近くに住む先住民イヌイットの猟師たちは、その到来の報を聞きつけるといっせいに色めきたち、ライフルを手に海へ急ぐ。

 私たちにとっても、それは待ちに待った瞬間だった。6月のあいだ、バフィン島北部のアドミラルティ入江でキャンプをして待ち続け、ようやくイッカクの甲高い鳴き声や噴気孔から出る音を耳にしたときには、思わず氷の塊にのぼり、歓声をあげた。

 最初は8~10頭しか見えなかったイッカクの群れは、たちまち数百頭にふくれあがった。

 「イッカクがやってきた」。無線の連絡が入ると、私の長年の友人でもあるイヌイットの猟師たちは、キャンプ道具とライフルを抱え、スノーモービルで続々と海辺に集まってきた。彼らは氷の上に陣取り、射程内の海面にイッカクが顔を出す瞬間を待って引き金をひく。うまく仕留めると、獲物に鉤をひっかけてたぐりよせる。

 氷の上に並ぶ男たちがイッカクを狙うのは、その牙が1本につき1000ドル(約12万円)以上で売れるからだ。職がないうえに生活費がかさむ極北の地では、またとない収入源となる。牙だけでなく、マクタックと呼ばれる表皮と脂肪の層も、彼らにとっては昔からの貴重な食材だ。

 ただ、北極圏の生活にはつきものの試練だが、イッカク狩りにも忍耐が欠かせない。ここのように開けた海では、イッカクはたいてい岸から離れたところにいる。だから猟師はキャンプ用コンロでお茶をいれ、よもやま話をしながら時間をつぶす。やがて無線機から情報が入ってくる。30キロ西に新しくできた水路で、イッカクの姿が確認されたという。男たちはすぐさま移動し、氷の裂け目が狭いことを確かめる。これなら十分射程内だ。

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