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特集

ニューギニアの極楽鳥
魅惑のダンス

JULY 2007


 10年以上にわたりニューギニアのさまざまな部族の中で暮らしたカナダのトロント大学の人類学者ギリアン・ギリソンは、「ニューギニアの人々にとって、ゴクラクチョウの羽は空を舞う人間の魂であり、生命誕生の象徴、世界の起源でもあります」と言う。

 ゴクラクチョウは、生物学的な謎もある鳥だ。生きるうえで必要のない機能は切り捨てる進化の過程で、なぜ華美な羽や芝居がかった求愛ダンスが生まれ、厳しい淘汰を免れてきたのだろうか。自然界において、自分の存在を誇示するのは危険極まりない行為だ。捕食者に自分の居場所を教えているようなものだからだ。米国ニューヨークのアメリカ自然史博物館の生物学者エド・スコールズは「ニューギニアでは、子孫を残すには強さより美しさが必要なのです」と言う。「ゴクラクチョウにとって、ニューギニアの暮らしは快適そのものです。この島の特異な環境が、ほかの場所ではあり得ないほどの美しい羽を作り出したのです」と続けた。もっと生存競争が厳しい環境なら、こんな姿の鳥に進化することもなかったのだろう。

 ニューギニアの森には、一年中、餌となる果実が実り、あちこちに昆虫がいる。一方、天敵はほとんどいない。全長およそ2400キロもある熱帯最大の島ニューギニアは、約8000年前まではオーストラリア大陸と地続きで、生息する動物の種類もほとんど同じだった。有袋動物や鳥類は多いものの、鳥を餌とする動物は皆無。サルやリスと餌を奪い合う必要もなく、ネコの餌食になるおそれもない。その結果、ニューギニアは鳥たちの楽園となり、現在では700種の鳥類が生息するようになった。

 餌の心配をしたり捕食者から身を守ったりする必要のない鳥たちは、異性をとりこにする魅力をひたすら競い合うようになった。より魅惑的な特徴は遺伝で受け継がれ、年月とともに華やかさを増していった。生物学者のスコールズは、「性淘汰と呼ばれるこのプロセスは、ゴクラクチョウにとっての自然淘汰であり、進化の原動力です。ニューギニアでは、自分が生き抜くよりも交尾を成功させて子孫を残すための特徴が優先して継承されるのです」と言う。

 豊かな自然環境も手伝って、ニューギニアの鳥類の多様性が生まれた。海岸沿いには湿度の高いサバンナ、高地には雲霧林が広がり、低地では湿地と平原が碁盤状に入り交じっている。内陸部には、険しい崖や岩がちな山脈が連なり、最高峰は標高およそ4800メートルに達する。火山活動や地震、大量の雨が作り出した地形は、野生動物の往来を物理的に阻んだ。こうしてそれぞれに孤立した種は独自の進化を遂げていく。この地形は人間の多様な文化にも影響を与えた。島の東半分を占めるパプアニューギニアだけでも、実に750以上もの言語が話されている。

 ニューギニアの自然は大半が未調査のままで、動物相も完全には明らかになっていない。2005年12月、インドネシア・パプア州(島の西半分に当たる)のフォジャ山脈を調査していた研究者らが、頭に6本の細長い飾り羽があるカンザシフウチョウを発見した。100年以上前の不完全な標本でしか知られていなかった伝説のゴクラクチョウだ。

 島の東部のパプアニューギニアにあるクレーター・マウンテン野生生物管理地域は、うっそうとした森が山頂まで続いている。樹冠に日光を遮られた暗い森の中には、フクロウのような低い声、甲高いさえずり、グラスの縁を指でこする音に似た美しい旋律など、さまざまな鳥の鳴き声が響く。高地の年間降水量は7600ミリ近くに達するため、土壌は常に水分を含んで湿っている。落ち葉が積もった森の地面は、水を吸い込んだスポンジの上を歩いているような感触だ。山の麓からは、前日に降った雨が流れるせせらぎの音が絶えず聞こえてくる。

  山道はでこぼこなうえに、ぬかるんでいて滑りやすく、慣れないと歩きにくいことこのうえない。だが、地元の女性や子どもは裸足で軽やかに歩き、わずかな費用で、重い荷物を運んだり、手を引いたりしてくれる。探し求めている鳥の写真を見せると、男たちが鉈で道を切り開きながら案内してくれた。山道をひたすら上れば、そこはゴクラクチョウの世界だ。

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