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特集

海を渡る蝶
アサギマダラ

MAY 2007

  • 文=窪田宣和
  • 写真=佐藤英治

本で唯一「渡り」をする蝶として知られるアサギマダラ。最長2000キロにもおよぶ旅をする蝶の謎を解こうと、日本各地に調査の輪が広がっている。

 青く澄みきった空。その化身のような蝶が、満開のヒヨドリバナめがけて舞い降りてくる。「来た!」――歓声を上げる子どもたちの捕虫網をかいくぐると、蝶は数回羽ばたき、頭上へふわりと舞い上がる。なめらかに旋回しながら、やがてその姿は周囲の木立より高く、小さくなり、視界から消えていった。

 「あれがアサギマダラか。残念だったね」と、初参加の親たちがなぐさめる。「花にとまるまで待って、それから捕まえるといいですよ」と指導者が助言する。毎年繰り返される、アサギマダラ調査の一コマである。ここは、愛知県知多半島南部の岬にある冨具神社。森に囲まれた境内で、私がこの不思議な蝶を追いかけ始めて、今年で23年目になる。

 アサギマダラ(Parantica sita)は、翅を開くと10センチ前後の、比較的大型の蝶である。黒と栗色に縁どられた翅脈の間が、その名の通り浅葱色(淡い水色)に透きとおり、まだら模様になっている。独特の優美な飛びかたをする、なんとも美しい蝶だが、最大の魅力はその行動にある。アサギマダラは日本で唯一知られている、長距離の「渡り」をする蝶なのだ。

「マーキング」で謎解きに挑む

 長距離の移動が初めて確認されたのは、1981年。鹿児島県の種子島から飛びたった蝶が、遠く離れた福島県と三重県で見つかったのである。思いがけない知らせに、昆虫研究者たちは「北米のオオカバマダラのように、大規模な季節移動をしているのではないか」と、色めきたった。

 移動にかかわる謎の解明には、データを一つひとつ積み重ねていくしかない。その方法が、野生生物の行動や個体数の調査に用いられる「マーキング」である。捕獲した個体に標識をつけて放し、再捕獲により移動の実態を確認する。鳥類やウミガメなどでは標識タグを付けるが、アサギマダラの場合は、油性ペンで翅に直接マークを記入する。この方法は、蝶の飛翔や交尾行動などに影響しないことが、野外での観察からわかっている。

 鹿児島昆虫同好会は、1980年からいち早く組織的にこのマーキング調査に取り組み、種子島からの長距離移動を立証した。会のリーダー、福田晴夫さんは「アサギマダラ大移動研究会」の名でニュースを発行。調査の輪は全国の昆虫同好会へと広がった。大阪市立自然史博物館には専門の「アサギマダラを調べる会」も誕生。自然に親しみながら、誰でも気軽に参加できるマーキングはやがて、子どもたちや野鳥の愛好家、プロの研究者まで巻きこんだ活動へと発展した。

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