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特集

真冬の北極
明けない夜を行く

JANUARY 2007

文=マルゲリテ・デル・ジュデイチェ

陽が昇らない真冬の北極。ヘッドランプと月明かりだけを頼りに、冒険家たちが地球の頂点、北極点を目指して歩き出した。彼らを待っていたのは、氷点下40℃の寒さと猛吹雪、そしてホッキョクグマだった。

 不気味だ。北極海に突き出た、ロシア領コムソモレツ島アルクティチェスキー岬の印象は、この一語に尽きる。広大な氷原は、風にあおられたおんぼろのドアのようにきしみ、辺りでは腹を空かせたホッキョクグマが餌を求めてうろついている。油断したら、たちまち彼らの餌食になる。だから、44口径の拳銃をいつも持ち歩かねばならない。

 この荒涼とした岬は、いかにも地の果てシベリアといった雰囲気だ。ただほかの辺境の地と違うのは、この岬が何度も大胆な北極探検の出発点になってきたことである。こうした冒険に挑戦できるのは、人間の限界に挑むプロの冒険家だけ。冒険愛好家や名声だけが目当ての“にわか冒険家”には無縁の場所だ。

 徒歩で北極点を目指す場合、岬を出発してから、氷が厚く安定した地点に到達するまでがまず難関となる。この最初の行程は、天候に大きく左右される。岬から先の海面が完全に凍っていることもあれば、氷塊の浮かぶ暗黒の海が何キロも続くこともある。ヘリコプターでこの難所を一気に飛びこえてしまう探検隊もいる。たとえ挑戦しても、途中で身動きが取れなくなって救助を待つのが落ちだからだ。

 2006年初め、6組の探検隊がアルクティチェスキー岬を出発する計画を立てていた。単独で挑戦したある冒険家は早々に音をあげ、また別の3組は安定した氷塊がある場所までヘリコプターで運んでもらった。残ったのは2組だけだ。そのうち、ボルゲ・オウスラントとマイク・ホーンの探検隊は、太陽がまったく顔を出さない真冬に、965キロを歩いて北極点を目指す。そしてもう一人の冒険家トマス・ウルリッヒは、もう少し明るくなる時期まで待ち、北極海を単独横断して、シベリアからカナダまでの1931キロを移動するつもりだった。

 43歳のオウスラントはすらりと背が高く、自信に満ちた風貌をしている。長い腕は強じんで、明るい茶色の髪と色白の肌が印象的だ。彼は異様なほど入念に準備を整える、いかにも北欧人らしい冷静沈着さを備えている。一方、39歳のホーンは南アフリカ生まれのスイス人。髪は黒く、笑うとえくぼができる。引き締まった体と目を見張るほど見事な太ももをしていて、好奇心が強く、活発で、とにかく精力的な印象を与える。

 そして39歳の小柄なスイス人ウルリッヒは、よくしゃべり、よく笑い、無邪気そうな青い瞳をしているが、筋金入りの強い精神力の持ち主だ。プロの登山ガイドである彼は、安全に関して人一倍うるさく、細部まで徹底的に計画を詰める。

 この3人は今回、冒険の最初から最後まで支援を受けずにやり通すつもりでいた。犬ぞりで装備や食料、燃料を運ぶこともせず、途中で空から補給してもらうこともない。すさまじい向かい風や猛吹雪、氷点下40℃にもなる寒さ、ホッキョクグマ、流氷など、予測できない自然に、自力で運べる装備だけで挑むというのだ。

 北極海の氷原は割れていくつもの島のようになることがよくある。氷の島と島の間にできた裂け目は“リード”と呼ばれ、北極圏の探検では、このリードを避けて通ることはできない。リードを見つけたら、まず氷原がつながっていて、渡れそうな地点を探す。見つからないときは飛びこえる。距離があるときは、ゴムボートをふくらませて漕いで渡るか、防水スーツを着て、泳いで渡る。オウスラントが考案した、ポリウレタン製のこの防水スーツは、服や靴の上から着用でき、空気を含んでいるので水に浮く。

 移動手段はスキーだ。生きていくのに必要な荷物はすべて自分たちで運ぶ。ハーネス(引き具)を体に装着し、カプセル型の2台のそりを引っ張る。このカプセル型のそりは水に浮き、雪面でも滑りやすいようにできている。荷物の中身は、テント、ストーブ、寝袋、真空パックの食料、ゴムボート、防水スーツ、照明弾、44口径大型拳銃、衛星携帯電話、予備バッテリー、超小型パソコン、それにGPS(全地球測位システム)だ。荷物の総重量は100キロをはるかに超えるが、日がたつにつれ少しずつ軽くなる。さらにオウスラントとホーンは足元を照らすためにヘッドランプを用意した。

 3人の今回の冒険にはロシアの探検プランナー、ヴィクトル・ボヤルスキーが協力しており、またスイスにいるハンス・アンビュールが、カナダ航空宇宙局が提供する衛星画像をもとに、気象情報や進路の状況を毎日知らせてくれる。

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