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ハリケーンの最新科学
記事の筆者と写真家が、取材現場から報告する「最高の経験」、「最悪の体験」、そして「最も風変わりな思い出」。


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文=トマス・ヘイデン

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ハリケーン、台風、サイクロン。発生地域で名称は違うが、どれも大きな被害を及ぼす熱帯低気圧だ。現在の科学で、その進路や強さはどれほど性格に予測できるのか。

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 2005年10月24日、大西洋で発生した観測史上最強のハリケーン「ウィルマ」が米国フロリダ州南部に上陸した時、ドン・Eはマイアミ沖の小さな島バージニアキーに渡ってビールと釣り餌を売る小さな店で働いている最中だった。「私たちが本土から島に着いた時には、もう逃げるに逃げられず、ここで踏ん張るしかなかった」と、ドンは苦笑いする。
 運が良かったのか、意外に頑丈な造りだったのか、店は暴風を持ちこたえた。最大風速は海上で82メートルに達したが、幸い上陸時には風速54メートルまで衰えていた。それでもフロリダ州南部のほぼ全域が停電し、その後の2週間、ドンの店は自家発電機とわけてもらった氷で営業を続けた。その間バージニアキーで冷えたビールに確実にありつける場所はここだけだった。

 2005年はハリケーンの記録が次々に塗り替えられた年だ。ウィルマのほかにも、8月末に発生したハリケーン「カトリーナ」は1000人余りの死者を出し、ルイジアナ州ニューオーリンズと周辺の海岸を広範囲にわたって破壊し尽くした。経済損失は1000億ドルを超え、被害額では米国史上最大の自然災害となった。9月に発生した「リタ」もウィルマに匹敵する強いハリケーンで、ルイジアナ州西部からテキサス州東部までメキシコ湾岸地域に大きな被害をもたらした。
 この三つを含め、2005年には大西洋上で史上最多の15個のハリケーンが発生した。

 ウィルマが通過した数日後、ドンの店に来た客の中に早くも来年、再来年のハリケーン被害を心配する人がいた。米マイアミ大学のハリケーン研究者、シャラン・マジュムダールだ。彼は日々、ハリケーンの挙動を探り、勢力や進路を予測する研究に力を注いでいる。
 彼の話を聞くと、ウィルマが襲来した時にドンの店の客が避難しなかったことを、一概に責めることはできない。今の予報レベルでは、ハリケーンの進路が大きく外れたり、強さが1、2段階違うことがよくあるからだ。「わざわざ避難したけれど何事もなかった、ということも起こりうる」と、マジュムダールは言う。解決策は、研究を進めて予報の精度を上げること。「一般の人たちに警報を信頼してもらうには、それしかないと思います」
 今後、ハリケーンや台風(北大西洋や北東太平洋ではハリケーン、北西太平洋では台風、インド洋ではサイクロンと呼ばれる)による被害は大きくなるものと覚悟した方がいい。なぜなら、米国でもアジアの国々でも、被害に遭いやすい沿岸部の開発が進み、人口が急増しているからだ。また、北大西洋はハリケーンが発生しやすい時期にあり、あと10年かそれ以上、この状態が続くとみられる。そして、もう一つ心配なのが、地球温暖化の影響でハリケーンや台風が強くなっている可能性があることだ。

ハリケーンはこうして生まれる

 あらゆる気象現象は、熱をエネルギーにして生まれる。ハリケーンや台風もそうだ。太陽光がふんだんに照りつける熱帯の海で暖められた空気は、上昇気流となって上空へ立ち昇る。そこへ周りから空気が流れ込み、地球の自転によって空気が渦を巻く。こうして渦巻く積乱雲の集まりが形成される。
 空気の渦の中心、つまりハリケーンの「眼」には雲はほとんどないが、眼を取り巻いて積乱雲がらせん状に上昇する「眼の壁雲」では、暴風雨が激しく吹き荒れる。ハリケーンの発達した積乱雲は、時には高度1万5000メートル以上にも上昇し、そこでようやく中心から外に向けて風が吹き出す。

 こうした巨大なハリケーンが発生するには、海面の水温が27℃以上で、湿気があること、海面と上空で風速が異なるため積乱雲を引きちぎってしまう「風の鉛直シア」という現象があまりないことが条件となる。しかし、この3条件がそろっても、積乱雲の集まりがそれほど発達せず、ただの熱帯低気圧で終わることもある。
 2005年は、ハリケーンの発生にうってつけの条件がそろっていた。だが、実はすでに95年から活発期に入っている。熱帯の気候の周期的な変動によって海水温が上昇し、風の鉛直シアが減ったため、大西洋上では過去11年で、ハリケーンが例年より多い年が9年もあった。「この状態があと10年続くか、30年続くか、何とも言えません」と、米国海洋大気局の気象学者ジェリー・ベルは話す。

 ハリケーンの観測精度は、気象衛星の登場で大きく進歩した。可視光による衛星画像では積乱雲の表面しか見えないが、赤外線センサーを使えば、温度の高いハリケーンの眼の大きさと形がわかる。さらにレーダーやマイクロ波センサーで降雨帯の分布も調べられる。

 2005年には、熱帯暴風(ハリケーンより弱い熱帯低気圧)に無人の気象観測航空機「エアロゾンデ」を飛ばして観測を行った。エアロゾンデは10時間飛行し、高度400メートルまで降下して風速や風向を調べ、海面から雲の中へと上昇する熱と水蒸気の流れを観測した。
 この飛行は試験観測だったが、より簡易な装置「ドロップゾンデ」を使う観測は日常的に行われている。ドロップゾンデには計器が搭載されていて、高い高度を飛ぶ航空機からハリケーンの中心やそれを取り巻く暴風域に落とす。パラシュートで降下しながら、海に落ちるまでの間、0.5秒ごとに気温、気圧、湿度、風向、風速を観測し、航空機にデータを送信する。
 研究者たちは、ドロップゾンデの観測データをコンピューターの数値モデルに入力し、現在の状態と今後の発達を予測することで、ハリケーンの進路予報の精度を高めてきた。大西洋上で発生したハリケーンの3日後の進路予報は、1970年代には距離にして平均710キロの誤差があったが、2005年には誤差が平均260キロに縮まった。しかし1日後の予報の平均誤差はいまだに110キロもある。これではまだ、沿岸部の住民が「予報はどうせ外れる」と文句を言い続けるだろう。今の観測データと数値モデルの精度は、複雑に方向を変えるハリケーンの進路予測に十分とは言えない。

 さらに予測困難なのは、ハリケーンの強さだ。3日後の予報で比べると、90年代初めには最大風速で平均10メートルの誤差があり、現在もわずかに改善されただけだ。
 ハリケーンはおとなしくなったかと思うと、突然荒れ狂ったりする。最強の「カテゴリー5」に分類される最大風速70メートル以上のハリケーンが、わずか数時間で最大風速50~58メートルの「カテゴリー3」まで衰えたり、逆にハリケーンより弱い熱帯暴風が、急に猛烈なハリケーンに成長したりする。

 ハリケーンの強さは、通過する海の状態によっても変わる。暴風で波が立ち、海水がかき混ぜられると、海の下層の冷たい水が海面に上がってきて、ハリケーンの勢いを弱めるブレーキの働きをするのだ。だが、熱帯の海は水深数十メートルまで温かいことも多く、そんな時は海水がかき混ぜられても、ハリケーンに熱エネルギーが供給され続ける。
 2005年のカトリーナとリタでは、この温かな海域の影響が予想を上回った。この二つのハリケーンは、メキシコ湾を流れる、深いところまで温かい潮流「ループ・カレント」の上を通過する際にカテゴリー5まで発達した。

 一方、波は暴風の勢いをそぐ働きをする。ハリケーンの強風を受けた波は高さ30メートルを超えることもあり、生まれた波が風にブレーキをかける。「海からの熱はエネルギーを供給しますが、波は風を弱めます」と、マイアミ大学 の陳書毅は説明する。陳は、大気と波、海の相互作用を詳しくシミュレーションできる強力な新しい数値モデル「HWRFモデル」を共同で開発している。「波の影響を正しく考慮しないと、強さの予報でカテゴリーを1段階も2段階も間違えかねません」
 ハリケーン内部の活動も理解する必要がある。たとえばカトリーナはわずか12時間でカテゴリー3から、カテゴリー5に相当する最大風速78メートルまで発達した。上陸を目前にしてハリケーンの予報機関、米国ハリケーンセンターはものものしい警告を発した。「壊滅的な被害をもたらす恐れのあるハリケーン、カトリーナがメキシコ湾北岸に接近中」

 その後、カトリーナは急速に勢力を弱めた。ハリケーンの眼を取り巻く壁雲の南側の部分が崩れ、中心からより遠い所に新しい壁雲ができたのだ。フィギュアスケートでスピンする時、手を伸ばすと回転速度が落ちるように、外側にできた眼の壁雲はブレーキの役目を果たす。
 カトリーナの進むペースがもう少し速ければ、カテゴリー5の威力を保ったまま上陸しただろう。上陸直前に眼の壁雲が入れ替わったおかげで、より勢力の弱い、とは言っても、壊滅的な被害を与え得るカテゴリー3になって、ニューオーリンズをかすめた。

 ハリケーンは、上陸すれば次第に消滅する運命にある。水蒸気の供給が断たれるため、どんどん勢力が衰えるのだ。だが、末路とはいえハリケーンに巻き込まれた人たちにとっては、たいした気休めにはならない。
 ミシシッピ州沿岸に延びるハイウェイ90号線に沿った海岸部を眺めると、荒涼とした風景に思わず息をのんでしまう。記者が訪れたのはカトリーナ上陸からほぼ4カ月後。緑豊かだった海岸線には、瓦礫や木材の破片が散らばり、家々はコンクリートの土台から流されていた。

 こうした破壊をもたらした主な要因は水だ。ハリケーン被害のほとんどは、風ではなく豪雨や高潮によるものだ。ハリケーンの風で海水が陸の方へと吹き寄せられて、海面が盛り上がる現象が高潮で、カトリーナでは8メートル、あるいはそれ以上、海面が上昇した。
 「ミシシッピ州とアラバマ州の沿岸部には、最大級の高潮が発生するのに申し分ない条件がそろっているのです」と、沿岸海洋学者のリック・ルーティクは語る。この地域の沿岸部は浅いため、海水が吹き寄せられるとすぐに海面が上昇し、洪水が起きる。高潮の潮位予報プログラムを開発したルーティクによると、高潮被害には海岸の局所的な地形も関係する。たとえば湾や入り江があると、その奥に海水が集中し、潮位がより高くなる。逆に、海岸線に沿った島や湿地は緩衝帯となって、被害を軽減する。

 ミシシッピ州の隣にあるルイジアナ州の海岸線を空から眺めると、沿岸部の開発によって、島や湿地の防潮機能が低下したことがよくわかる。湿地帯には船が航行できるように浚渫した水路が縦横に延びている。この水路を通って、より内陸の湿地まで海水が流れ込み、湿地の保全に一役買っていた植物が枯れた。さらに、ミシシッピ川沿いに堤防や土手が多く築かれたため、川が運ぶ土砂が湿地に堆積しなくなり、浸食が進んだ。その結果、ルイジアナ州沿岸の湿地は、1950年から2000年までに毎年70平方キロのペースで水没し、20%以上が海になってしまった。

 ハリケーンの本当の猛威は、カテゴリー分類や風速では推し量れないし、家屋や生態系に与えた打撃、さらには死者の数ですら量れない。ハリケーンを生き延びるというのは、被災前と後とで何かが決定的に変わってしまうような体験なのだ。ニューオーリンズの住民タミー・バンダザイルは、カトリーナの上陸時にアパートに残って洪水をやり過ごした。それから3週間、彼女はほとんど見ず知らずの人たちと極限的な生活に耐えた。「すぐ下の駐車場にまで波が打ち寄せていたんです。信じられないような光景でした」と、彼女は当時を振り返る。
 バンダザイルをはじめ多くの市民にとって、ニューオーリンズがかつての住み慣れた街に戻ることはもう期待できない。だが、この街から出て行くつもりかと聞くと、バンダザイルは首を横に振った。「もっとずっとひどい目に遭わない限り、ここで暮らしていきますよ」

温暖化とハリケーンの関係

 科学的には確実ではないが、将来、「今よりはるかにひどい」被害が起きる可能性はある。米マサチューセッツ工科大学の気象学者ケリー・エマニュエルは慎重な性格で、地球温暖化でハリケーンが強まるという説は確かな根拠を欠くと、長年考えてきた。ところが昨年、解析した結果を見て、再考せざるを得なくなった。世界中で発生した熱帯低気圧の全エネルギーを調べたところ、過去30年間でその破壊力はほぼ2倍に高まったことがわかったのだ。
 エマニュエルのこの解析結果に続き、米ジョージア工科大学のピーター・ウェブスターらのグループも、似たような研究結果を発表した。それによるとカテゴリー4以上に分類される強力なハリケーンの数が、過去35年間に2倍近く増えたというのだ。原因については両者とも、地球温暖化で海面の水温が上昇し、ハリケーンが発達しやすくなったためと考えている。

 今や、人間の営みによって地球温暖化が進んでいることを疑う気象学者は少ない。一方で地球温暖化の結果として、ハリケーンが威力を増しているという主張については賛否両論がある。ハリケーン予報の草分けである米コロラド州立大学の研究者ウィリアム・グレイは、この主張を「明らかな間違い」と言い切る。グレイと米国ハリケーンセンターのクリストファー・ランドシーによると、過去のハリケーンに関するデータは当てにならず、エマニュエルとウェブスターの分析も確実ではないという。70年代に気象衛星を使った観測が進むまで、上陸しなかった熱帯低気圧は記録されないことが多かった。その後も観測技術は刻々と進歩しているため、ハリケーンの強さを単純には比較できない。
 データが完璧ではないことは、エマニュエルも認める。「でもハリケーンの傾向を知るのはとても重要です。長期にわたって信頼できるデータを集めていくしかありません」

 過去の記録をより信頼できるものにするため、ランドシーは高潮や風害の記録を19世紀半ばまでさかのぼり、ハリケーンの強さを推測している。海に近い湖や、海岸の森林の古木を調査し、過去のハリケーンの痕跡を探す研究も進んでいる。湖にはハリケーンに運ばれた浜辺の砂が堆積し、古木の年輪には通常の雨より軽いハリケーンの雨粒の跡が残っている。
 結論はすぐには出そうもないが、その間にも沿岸部の人口は増え続け、予想される被害も深刻さを増している。ランドシーは言う。「もしかすると、現在の社会の変化は、地球温暖化や周期的な気候変動以上に大きな影響を及ぼすかもしれません。被害に遭いやすい地域の人口が今後20年か30年で倍増したなら、それこそが大災害の要因になります。ハリケーンの数や強さがまったく変わらなくても、私たちは非常に大きな問題を抱えているのです」

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特集関連の豆知識

 ハリケーンという言葉がマヤ語、タイノ語、あるいはカリブ語に由来するということことについては、今も議論が分かれるところ。だがマヤ神話で風や雨をつかさどり、時に暴風雨を引き起こすとされる神、フラカンの名を最初にスペイン人に伝えたのは、大アンティル諸島から来たタイノ族だった。カヌー(カノア)、ハンモック(ハマカ)、バーベキュー(バルビキュまたはバルバコア)など、英語の語彙には、タイノ語に由来するものが数多く見られる。

――カレン・コートニッジ

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関連リンク

国立海洋大気局ハリケーン・センター:米国海洋大気局(NOAA)のハリケーン・センターが、ハリケーンに関する過去および現在の情報を掲載。ハリケーンに向けての対策も紹介している。
http://www.nhc.noaa.gov

ドロップゾンデ:米国立大気研究センターが、現在のハリケーン研究で重要な役割を果たしているドロップゾンデの観測システムを解説している。
http://www.eol.ucar.edu/rtf/facilities/dropsonde

エアロゾンデ:NOAAがまとめた、エアロゾンデを使った熱帯暴風「オフィーリア」の観測報告を掲載。エアロゾンデに関する他のサイトやNOAA主管のプログラム、ハリケーン観測機に関するサイトへのリンクもある。
http://www.noaanews.noaa.gov/stories2005/s2508.htm





日本版の過去記事

2004年10月号「海に沈む 米国の大湿地帯」


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