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取材現場から
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パンダ貸します
記事の筆者と写真家が、取材現場から報告する「最高の経験」、「最悪の体験」、そして「最も風変わりな思い出」。



本誌に載らなかったオンラインだけの写真。撮影条件も紹介します。


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文=リン・ウォーレン 写真=マイケル・ニコルズ、フリッツ・ホフマン

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現在、中国以外の国の動物園にいるパンダは、ほとんどが中国からレンタルされたものだ。手厚い飼育のおかげで、その頭数は増えつつある。

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 丸くてふっくらしたほっぺた。いつも昼寝しているかと思えば、餌をむしゃむしゃとほおばっては母親にまとわりついている。こんな愛らしい動物が、まさか巨額の取引や国際外交に利用され、人々の熱狂を浴び、政府や科学者の期待を一身に背負っているとは、ちょっと想像しにくい。だが、この米国生まれのジャイアントパンダの赤ちゃん「タイシャン(泰山)」は、まさにそんな1頭なのだ。
 タイシャンは2005年7月9日の午前3時41分、米国のワシントンD.C.にあるスミソニアン動物園で生まれた。2000年12月に中国からやってきた雄のティエンティエン(添添)と雌のメイシャン(美香)との間に生まれた、初めての子供だ。米国にいるパンダはこの親子を合わせてわずか11頭。パンダの飼育には科学の粋が集められ、莫大な費用が投じられている。
 動物園が中国からパンダを借り受けて飼育すると、1年に平均260万ドル(約2億9000万円)もの費用がかかる。子供が1頭生まれるとその額は300万ドルを超え、2頭だと400万ドル近くになる(パンダの妊娠の半数近くは双子)。「パンダ以外の動物なら、こんな多額の金を投じるなんてありえない」と、スミソニアン動物園の繁殖研究責任者デビッド・ウィルトは語る。
 なぜ、パンダは特別なのか? 理由の一つはその愛らしさにあるだろう。タイシャンと母親のメイシャンの様子をライブ映像で見られるスミソニアン動物園のホームページには、毎月平均して200万ものアクセスがある。またタイシャンが一般公開されてから3カ月間は、同動物園の入園者が50%近く増加した。
 パンダが特別であるもう一つの理由は、生息数がきわめて少ないことだ。中国が行った最も新しいパンダの個体数調査では、四川省、陝西省、甘粛省の高山地帯にすむパンダの数は1590頭と報告されている。パンダが暮らす森林で厳密な調査は難しいので、これはある程度の誤差を含む数字だろうが、多くの野生生物学者が野生のパンダの生息数を1000~2000頭の間とみている。
 一方、動物園などにいるパンダの数は、2005年末時点で世界にわずか188頭。米国に11頭、日本に9頭、メキシコ、タイ、ドイツ、オーストリアに数頭ずついる以外は、すべて中国の動物園や研究施設で飼育されている。
 どこの動物園でも新たにパンダを借り受けたり、パンダの赤ちゃんが生まれたりすれば、入園者は急増する。しかし、だからと言って動物園がもうかるとは限らないようだ。入園者の増加で収入は増えても、その額はパンダにかかる費用にはまるで及ばない。
 なぜ、パンダにはそんなに金がかかるのか? 過保護な飼育が一つの要因だろう。動物園の人気者だけに、パンダはどこでも手厚い世話を受けている。最新設備の整った監視カメラ付き飼育室、献身的な飼育係と獣医、そして新鮮な竹にニンジンやヤムイモ、それにビタミンとミネラルたっぷりの特製ビスケット。こうした飼育には年間何十万ドルもの費用がかかる。
 複雑なのは、それ以外の出費だ。ジャイアントパンダは「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(通称、ワシントン条約)」と、米国では「種の保存法」の二つの法律で守られている。「ワシントン条約が禁じているのは『主として商業目的』での動物の取引。米国の保護法はさらに踏み込んで、絶滅の危ぶまれる動物が輸入によって種の生存が補強される場合に限り、動物園に輸入を許可するとしています」と米国魚類野生生物局のケン・スタンセルは言う。
 こうした規制の強化によって、パンダのレンタルは様変わりした。1980年代から90年代の初めには、たびたび中国から米国の動物園へ、短期間パンダが貸し出されていた。これは保護のためというより、中国側に支払われるレンタル料や、米国の動物園の入園料収入といった経済的なメリットが主眼だったようだ。
 成熟したパンダが繁殖設備のない施設に送られることもあったし、中国の動物園がレンタルのために野生のパンダを捕獲しているといった批判すら聞かれた。米国魚類野生生物局はこうした状況を受け、新たな規則ができるまでパンダの借り受けを一時的に禁止した。「借り受けがパンダの保護に役立つような方法を考えることにしたわけです」とスタンセルは言う。
 そして同局は98年、米国の動物園がパンダの借り受けを希望する場合には、パンダ保護のために中国と協力することを義務づけた。
 中国は様々な助力を必要としていた。まず、中国の保護機関には、パンダの病気やホルモン、社会行動といった基本的な情報が不足していた。動物園や繁殖センターは寄生虫や感染症の対策、繁殖技術や最適な餌選びなど飼育係への教育を求め、財政赤字に悩む中国政府は、自然保護政策を拡充するための資金も必要としていた。
 米国では現在、動物園がパンダを借り受けるには、野生パンダの保護に役立つ研究プログラムを立案することと、中国政府のパンダ保護計画への資金援助が必要である。
 こうして90年代末、米国の動物園は膨大な資金を投入し、研究目的でのパンダの長期借り受けを開始した。中国側は野生ではなく、動物園や繁殖センターで育ったパンダを米国に送り込んだ。受け入れ側の米国の動物園は、研究者がパンダの交尾や食習慣、運動や睡眠といった生態を細かく観察し、データは中国の研究者にも報告した。
 スミソニアン動物園のウィルトが最近行った調査によると、中国で米中の専門家が実施したパンダ保護の研修には、1300人近い受講者が集まった。また、米国の動物園では100人以上の中国人研究者が活動し、そこで得た知識や技術を母国に持ち帰っている。米国の動物園は、年間平均61万4000ドルをこうした研修プログラムやパンダ研究に投じている。
 さらに、パンダを借り受けた動物園は、パンダとその生息地保護の資金として、それぞれ毎年100万ドルを中国政府に提供している。中国はこの資金を使って、パンダが生息している自然保護区に通信ネットワークを設置したり、保護区周辺の学校で環境保護教育を実施したり、生息地が分断されると遺伝的多様性にどんな影響が生じるかを分析したり、小さくなってしまった竹林の再生計画を練ったりしている。
 だが、資金が現場に届くまでにはお役所仕事と書類の山が待っている。たとえば四川省の自然保護区で実施されるプロジェクトのために資金を送る場合、まず提供元の動物園から中国野生生物保護協会へ送られ、そこから中国国家林業局、四川省林業局野生生物課、さらに保護区のある自治体を経てようやく目的の保護区に届けられることになる。
 それでも野外調査に対する支援は欠かせないと、北京大学の研究者、王大軍は言う。「動物園などにいるパンダは増えているが、野生のパンダはかなり厳しい局面にある」。なかでも生息地の減少は深刻だ。
 100万ドルのほかにも、中国から貸し出されたパンダが子供を生んだ場合、動物園は子パンダ1頭当たり60万ドルを中国に支払うことが義務づけられている。総合すると動物園にかかる負担は膨大なものになる。なぜ動物園がパンダを借りたがるのか、不思議でならないと、魚類野生生物局のスタンセルは言う。
 カリフォルニア州にあるサンディエゴ動物園のジャイアントパンダ飼育の責任者ドン・リンドバーグによれば、パンダを借りる目的は、入園者を集めて増収を図ることでも、箔を付けるためでもない。「パンダは中国との関係を取りもってくれるんです。おかげで野生のパンダ研究の最新の知見にも触れられます」
 なかでも対中関係を築くのに最も大きな役割を果たしたのは、おそらくフアメイ(華美)だろう。サンディエゴ動物園の雌パンダ、バイユン(白雲)が1999年に出産した雌のフアメイは、米国で生まれて無事に育った初めてのパンダだ。2004年、フアメイは中国四川省の臥龍(ウォロン)自然保護区に里帰りし、その後すぐに妊娠して双子を出産。2005年にもまた双子を出産した。
 フアメイだけではない。昨年夏、臥龍では、飼育されているパンダの空前のベビーブームが到来した。同ジャイアントパンダ研究センターの雌パンダ11頭(フアメイを含む)が、16頭の赤ん坊を生んだのだ。さらに驚くべきは、その生存率。生まれたパンダは双子を含め、1頭残らず元気に育った。「10年前、臥龍で人工飼育されたパンダの乳児死亡率は100%でした」とリンドバーグは言う。野生の雌パンダは双子を生むと、通常は1頭だけを育て、もう1頭を放置して死なせてしまう。そこでセンターは、飼育下で双子が生まれると、放棄された方の赤ん坊を人間の手で育ててきたが、たいてい失敗に終わった。「当時、赤ん坊にはイヌの母乳に近いミルクが与えられていました」とリンドバーグは振り返る。その後、サンディエゴ動物園の栄養学者が、脂肪分を多く含むパンダの母乳に近いミルクをつくることに成功したのだ。  臥龍の赤ん坊パンダの生存率が高まったもう一つの理由は、「双子交換」と呼ばれる方法。これは母パンダが世話をする赤ん坊と人工保育の赤ん坊とを時々入れ替える方法だ。母パンダは人間が少し手を貸すだけで、どちらの赤ん坊も同じように受け入れた。  自然保護団体コンサベーション・インターナショナルの生物学者、呂植によれば、ジャイアントパンダは子供をあまり生まないという従来の通説は間違いだったという。野生のパンダは、実は北米に生息するヒグマと同じくらいたくさんの子供を生むことが、最近の研究で明らかになっている。野生の雌は通常、およそ15年にわたり2年に1回のペースで出産し、生涯に5~6頭の子を残す。飼育下での繁殖が長年うまくいかなかったのは、飼育や管理の仕方が悪かったせいだとわかった今、動物園の飼育スタッフは2005年の繁殖の成功をことのほか喜んでいる。  2005年に生まれた子供たちが加わって、飼育されているパンダの数は「300頭」という目標に一歩近づいた。300頭いれば「その集団内で繁殖を繰り返すことで種を存続でき、これまでに知られているジャイアントパンダの遺伝的多様性も90%維持できる」と、スミソニアン動物園の集団生物学者ジョン・バルーは言う。バルーはまた、世界中で飼育されているすべてのパンダの成獣について、どんな組み合わせで繁殖するのが遺伝的に望ましいかを評価したリストを毎年作成している。愛らしく、ひょうきんでやんちゃなタイシャンは、いわば絶滅の危機に瀕する生物たちの代表だ。レンタルパンダが縁となり、本格的な国際協力の可能性が広がった。そして科学の力が、野生生物保護につきまとう様々な困難を乗り越える原動力になりつつある。昨年生まれたパンダたちのおかげで、飼育されているパンダは絶滅の危機から一歩抜け出し、自立していける集団への一歩を踏み出した。タイシャン、誕生日おめでとう。


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特集関連の豆知識

 ジャイアントパンダは、ほんとうにクマの仲間なのだろうか。1世紀以上にわたって、科学者たちはこの基本的な問題について議論を重ねてきた。パンダは見た目も、歩き方も、木の登り方もクマに似ているし、頭骨の形状にも多くの共通点が見られる。しかし、短い鼻先など、アライグマと共通する特徴もある。結局のところ、パンダはクマなのか、アライグマなのか、それとも別の独立した種なのだろうか。
 近年、調査技術の発達にともない、動物たちの血縁関係の詳細が明らかになってきた。DNA鑑定の結果、ジャイアントパンダはクマと最も近い関係にあるクマ科の動物であることがわかった。科学者たちは、パンダがクマと分化したのは数百万年前のことで、その頃パンダは、竹が最も豊富な食糧資源だった環境に適応したのではないかと推測している。
 ジャイアントパンダの正体を知ることに、どんな意義があるのだろうか。米国サンディエゴ動物園のドン・リンドバーグはこう語る。「パンダについてより多くを知れば、彼らの繁殖と生存のために有効な手助けをすることができるのです」。

――キャシー・B・マハー

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関連リンク

スミソニアン動物園・パンダカム:米国の首都ワシントンにあるこの国立動物園のサイトでは、ライブカメラ映像で赤ちゃんパンダのタイシャンとその母親メイシャンが竹をほおばったり、遊んだりしている様子から、寝ている姿も見ることができる。飼育係のインタビュー記事や、無料でダウンロードできるパンダのスクリーンセーバーがあるほか、パンダ保存基金への支援方法の情報も掲載されている。
http://www.nationalzoo.si.edu/Animals/GiantPandas

世界自然保護基金(WWF):およそ四半世紀前に、国際機関として初めて中国でパンダの保護活動を行ったのがWWFだった。中国国家森林局と共同で実施したパンダの調査や、画期的な野外研究をはじめとするさまざまな活動によって、パンダの生態が徐々に明らかになり、より確実な保護活動が可能になってきた。このサイトで、WWFによるパンダ保護プログラムや、個人ができる支援方法についての情報を見てみよう。
http://www.worldwildlife.org/pandas

ジャイアントパンダの種の保存計画:全米動物園・水族館協会は、動物園で行われている繁殖や遺伝子管理、飼育、科学的な研究といった活動を統合管理するため、「種の保存計画」を立ち上げた。プロの研究者にも熱心なパンダファンにも興味深いこのサイトでは、ジャイアントパンダに関する自然史や生態についての記事のほか、中国の文化史におけるパンダの役割といった記事が読める。
http://www.giantpandaonline.org

サンディエゴ動物園:米国カリフォルニア州サンディエゴ動物園では、米国内で最も数多くのパンダが飼育されている。現在、ここで暮らしているパンダは4頭。このサイトでは、パンダのライブ映像を楽しんだり、飼育係や訓練係によるブログや、この動物園で行われている革新的なパンダ研究についての最新情報を読むことができる。
http://www.sandiegozoo.org/zoo/ex_panda_station.html

アトランタ動物園:米国ジョージア州アトランタ動物園のジャイアントパンダ、ルンルンとヤンヤンは、地元住民はもちろん、街の外から訪れる来園者たちにも大人気だ。アトランタ動物園のパンダ保護活動は世界的な規模で行われており、中国に対してもパンダ保護に関する情報を提供している。動物園が新設した保護訓練アカデミーでは、現代の動物園や水族館が担うべき、動物や自然に対する愛情を育てるという役割に焦点があてられている。
http://www.zooatlanta.org/animals_giant_panda.htm

メンフィス動物園:2003年に米国テネシー州にあるメンフィス動物園にやってきたヤァヤァとリーリーは、総工費1600万ドルの飼育施設で、専属の“竹係”の庇護の下で快適に暮らしている。竹係は、パンダの食事用に新鮮な竹を毎日20キロ用意している。メンフィス動物園のサイトでは、2頭のライブ映像に加え、同動物園が行っている研究計画についての情報も掲載されている。
http://www.memphiszoo.org

成都ジャイアントパンダ繁育研究基地:中国国内で最も有名な、そして最も成功を収めているパンダ繁殖施設のひとつ、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地は、四川省の大都市、成都市街のすぐ外に広がる風光明媚な公園の中にある。この研究基地では、新しく生まれるパンダの生存率を高めるための努力が続けられている。中国語、英語、日本語の3カ国語から選べるサイト。
http://www.panda.org.cn



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