ペッカリーのヌタ場へ集まる野生動物

2014.09.29
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ペルーのマヌー国立公園にあるヌタ場で撮影されたペッカリー。ヌタ場は、生態系にとって重要な役割を果た していることが、研究で明らかとなっている。

Photograph by Harald Beck
 アンデスの東、ペルーのマヌー国立公園内コチャ・カシュ生物学研究拠点があるアマゾン熱帯雨林の中に、水たまりの点在する開けた土地がある。周囲の植物は、飛び散った泥で覆われている。 ここはペッカリーのヌタ場である。クビワペッカリー(学名:Pecari tajacu)は、ブタのような外見をした動 物で、家畜化したブタと同じように泥の中を転げまわる習性がある。

 転げまわって泥を浴びることで寄生虫を取っているのだろうと、メリーランド州にあるタウソン大学の熱帯生 態学者ハラルド・ベック(Harald Beck)氏は話す。また、背中を泥で覆うことによって身体を涼しく保つ効果が ある。当の動物たちは、ただ楽しいだけなのかもしれないが。

 しかし、コチャ・カシュで行われたベック氏の研究でも分かるように、ペッカリーのヌタ場は深刻で驚くほど 大きな影響を生態系へ与えているのだ。5月から10月の乾期の間、ヌタ場はカエルからバク、オセロットに至るま で、実に多様な動物たちの水飲み場として貴重な役割を担っている。

 ペッカリーが泥の中を転げまわると、跡が残る。その跡が、水を通さない粘土の層となって地表を覆い、そこ に雨水がたまり、乾期の間も水を保持する。最も乾燥する時期には、森林の中で湖や川以外に得られる表面水と いえば、ヌタ場の水だけということもあるのだ。

 ベック氏がヌタ場に興味を持つきっかけとなったのは、あるヌタ場のすぐそばにおたまじゃくしの入った泡状 の巣を発見したことだった。まだ小さくて敵に狙われやすいおたまじゃくしを守るために、親ガエルが作った構 造物だ。少し成長すると、おたまじゃくしはここから抜け出して水場を目指して這って行く。その巣を観察して いたベック氏は好奇心をそそられた。ヌタ場がカエルの子孫を残す手段として使われているのではないかと考え たのだ。

 ペッカリーのヌタ場を体系的に研究した結果、その水の成分はコチャ・カシュにある自然にできた水たまりの 水と全く同じであることが分かった。しかしヌタ場の場合、底が水を通さない粘土質の土でできているため、普 通の水たまりよりも長い間多くの水を留めておくことができる。ベック氏とその学生らは、ヌタ場にはカエルの 種が他よりも多く、しかも高い密度で生息していることを発見した。

 生態系エンジニアとして活躍する動物はペッカリーだけではない。ビーバーは川にダムを作って池を形成し、 バイソンの作る粉塵のヌタ場は、大草原地帯の中の水場として機能している。フロリダ州エバーグレーズに生息 するワニは「ゲーター・ホール(ワニの穴)」と呼ばれる水の窪みを作り、その中で乾燥した時期をやり過ご す。そこには、多くの種類の昆虫や魚、鳥たちも集まってくる。

◆森から姿を消すペッカリー

 以前は、マヌー国立公園をはじめとする中央アメリカおよび南アメリカの各地で、今よりも多くのペッカリー が生息していた。体重50キロにまで成長するクチジロペッカリー(学名:Tayassu pecari)は、クビワペッカリ ーよりもさらに数が多く、最高で1000頭からなる群れが確認されたこともある。この大群が形成するヌタ場は、 それこそかなりの広範囲にわたっていたに違いない。

 しかし、病気や生息地の減少、乱獲が原因でクチジロペッカリーの数は過去18年間で30%減少し、地域によっ ては絶滅してしまった所も多い。

 ペッカリーが地域的に絶滅してしまうと、そのヌタ場に頼っていた多くの種の個体数減少や絶滅までも連鎖的 に招いてしまうのではないかと、ベック氏は懸念している。

 生態学者は、鍵となる捕食動物や捕食対象動物の絶滅による波及的影響について長いこと研究してきた。しか し最近では、生態系がそのエンジニアを失うとどうなるのかという研究に注目が集まっている。その過程で、一 つの種が地域的に、あるいは世界的に絶滅することで、その集合体全体が疲弊してしまうということが明らかに なりつつある。

Photograph by Harald Beck

文=Emma Marris

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