人工授精は絶滅危惧種を救えるか?

2014.08.22
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2014年5月に卵からかえったマゼランペンギンのヒナ。サンディエゴにあるシーワールドで行われている人工授精による繁殖の2度目の成功例となった個体群だ。右端の1羽は、凍結後解凍した精子を使って受精した卵からかえった最初のペンギン。左側の2羽は冷凍精子を使って受精を行った。

Photograph by Emily Berl
 お見合いからムード作りまで、飼育下にある絶滅危惧種の繁殖には多大な努力を要する。自然に任せていてはうまくいかないこともあり、人が介在することになる。 繁殖のための手段の1つが人工授精。オスの精子を採取して、メスの生殖器官内に入れるというものだ。だが、人や、ウシ、ヒツジなどの家畜にとっては当たり前のことでも、野生動物が相手となるとそうそう簡単ではない。

 それでも科学者たちは挑戦し続ける。なぜなら、成功すれば飼育下にある動物の遺伝的多様性が高まり、病気や環境の変化により柔軟に適応できるようになるからだ。それに、人工授精は動物を絶滅の危機から救うのにも役立つ。

 最近、人工授精によりマゼランペンギンのヒナを誕生させることに成功したとの発表があり、取り組みの実現に向けた期待が一気に高まった。ペンギン類で人工授精による繁殖に成功したのは今回が初めてだ。

 旧式の方法と人工授精を組み合わせた繁殖法が定着しているのは、絶滅危惧種ではクロアシイタチとジャイアントパンダだけだ。そう話すのは、ワシントンD.C.にあるパンスミソニアン・クリオイニシアティブ(Pan-Smithsonian Cryo-Initiative)の生物学者でプロジェクトリーダーのピエール・コミッツォーリ(Pierre Comizzoli)氏だ。

 とは言え、マナヅルやプシバルスキーウマなど、ほかの動物でも人工授精に成功した例はある、とコミッツォーリ氏は話す。

 イギリスのシェフィールド大学とワシントンD.C.にあるスミソニアン国立動物園に所属する生殖生物学者のビル・ホルト氏によると、ゾウでもいくつかの成功例があるということだ。

 実際、技術的な障害はいくつかあるものの、科学者たちは人工授精の利用をさらに多くの種にまで広げるべく取り組みを続けている。「ごく少人数の研究者により進められている取り組みによって、問題は解決へと向い始めている」とホルト氏は話す。

 バージニア州フロントロイヤルにあるスミソニアン保全生物学研究所(SCBI)の生殖生物学者エイドリアン・クローシェ(Adrienne Crosier)氏は、絶滅危惧II類(危急)に分類されているチーターへの人工授精を数年前から試みているが、今のところまだ成功には至っていない。だが同氏は人工授精を“画期的な手段”と呼び、さらなる取り組みを続けている。

「重要性はますます高まっている」とクローシェ氏は言う。「あと10年ほどで、チーターの人工授精で何らかの結果が出ることになるだろう」。

◆絶滅の危機

 カリフォルニア州サンディエゴにあるシーワールドとブッシュガーデンズ(Busch Gardens)で生殖プログラムの研究部長を務めるジャスティン・オブライエン(Justine O’Brien)氏は、「マゼランペンギンはペンギン類のなかでもおとなしく、とても人懐こい」と話す。

「それに、動物園での生殖も比較的簡単に行える」とオブライエン氏は言う。同氏はマゼランペンギンの人工授精に取り組んでいる研究者の1人だ。

 マゼランペンギンは絶滅危惧種ではないものの、野生の個体は危機の高まりに直面している、とオブライエン氏は言う。「野生のマゼランペンギンの繁殖地は、気候モデルで嵐の発生回数と強度の増大が予測されている地域にあたる」。

 オブライエン氏によると、マゼランペンギンはケープペンギンやガラパゴスペンギンといった絶滅危惧種の近縁種にあたるという。マゼランペンギンでの人工授精で良い結果が出れば、より深刻な状況にあるペンギン種への応用の道が開けると期待されている。

 人工授精はすでに、飼育下にある野生動物の個体数をコントロールするための重要な手段となっている。

「動物を移動させることなく、別の施設や国に遺伝子を運ぶことができる、非常に便利な方法だ」とSCBIのクローシェ氏は話す。

 さまざまな生物種の精子を冷凍しておき、後になって使用するということも可能であり、将来のために精子を保存しておくための手段としても使える、とシェフィールド大学のホルト氏は言う。1980年代に採取されたクロアシイタチの精子は現在でも使用されている。

 クロアシイタチは、人工授精による繁殖によって野生の生息環境に戻されることが決まっている初の絶滅危惧種だ。時間はかかるかもしれないが、ほかの動物も最終的に同じように野生に戻せるようになるだろう。科学者たちはそう確信している。

Photograph by Emily Berl

文=Jane J. Lee

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