火星への有人飛行が意味するもの

2014.08.07
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キュリオシティ火星探査ミッションについてまとめた初めての書籍『Mars Up Close(すぐ近くにある火星)』は、奇しくもキュリオシティの火星着陸から2年目となる記念日に出版された。

Photograph courtesy of National Geographic Books
 私達は全員火星人なのか? 将来、火星旅行が現実になる日が訪れるのか? 地球外生命体はSFのなかだけの話ではないのか? サイエンスライターのマーク・カウフマン(Marc Kaufman)氏は、火星およびNASAのキュリオシティ火星探査ミッションについてまとめた最新の著作『Mars Up Close(すぐ近くにある火星)』のなかで、これらの疑問を取り上げている。この本からは、これまで私達が知らなかった火星の真実の姿が見えてくる。

 ペイパル社と火星とのつながり、有人宇宙飛行が人類にとって重要である理由、そして戦争と関連付けられることが多く、不毛の星に見える火星が実は私達の母なる星であるという説について、カウフマン氏に話を聞いた。

◆本の冒頭には、「10~20年のうちに火星に移住するつもりだ」というイーロン・マスク(Elon Musk)氏の耳を疑うような発言が引用されています。このようなことが本当に実現可能なのでしょうか?

 ありとあらゆる事が順調に進んで初めて実現する、とだけ言っておきましょう。大きな課題がいくつもあります。ですが、人を火星に送るための方法は確立されています。問題は、資金はあるのか、そして世間は支持してくれるのかという点です。いずれにしても、マスク氏は独力でなんとかできる有利な立場にあります。

◆イーロン・マスク氏についてかいつまんで教えていただけますか。

 マスク氏はペイパル社で財を成しました。そして、こう考えたそうです。「僕は大金を持っている。世界の役に立つにはどうすればいいだろう」。当時、彼はまだ若く、最も重要だと考えることが3つありました。電気自動車と宇宙開発、そしてエネルギーです。そこで、まず彼はテスラモーターズ社を設立し、史上最高との呼び声の高い電気自動車の製造に乗り出しました。次に、スペース・エクスプロレーション・テクノロジース・コーポレーション(スペースX)社を立ち上げ、民間宇宙産業の発展に大きく貢献しました。

 そして今回、彼はまたもやあらゆる障害を乗り越え、国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送でNASAと契約を結びました。実際に火星に人を送るための重量物打ち上げロケットの製造も進めています。

◆偶然ですが、ちょうど先週、NASAが“ありえない”とされていた半永久エンジンの試運転に成功したとの発表がありました。これは火星への有人飛行にとって重要な意味を持つことなのでしょうか?

 重要な問題の1つが、現在の技術を使った場合、火星に到着するのに約9カ月かかるということです。この間、放射線を浴び続ければ、被ばく量は危険域に達するであろうと言われています。死亡しないまでも、重篤な症状が出ることになるでしょう。そのため、より短期間で到着することが必要です。もう1つの障害が、火星にいる間の生命維持をどうするかです。

 そして、再び地球に戻ってくるわけですが、火星を出るには非常な困難を伴うことがわかっています。極めて薄いとはいえ、火星には大気が存在します。アポロ月面探査計画のときのように、ロケットを簡単に打ち上げるというわけにはいきません。火星を出るには、非常に高性能で強力なロケットが必要です。どうすればいいのか、現時点ではまだわかっていません。

◆キュリオシティ・ミッションについて教えていただけますか。

 ミッションの主な目的は、火星がかつて生物が生息可能な環境であったのかどうかを見極めること。そして、可能であれば、生命の源とされる炭素系有機化合物を見つけることでした。火星に生命が生息していたことがあるのなら、生命の源となるものが存在するはずです。

 火星着陸後、キュリオシティはイエローナイフ湾と呼ばれる場所に立ち寄り、そこで驚くべき発見をしました。イエローナイフ湾は古代の干潟のようなものです。そこに注ぐ川の跡も見つかり、かつて大量の水が流れ込んでいたことがわかったのです。

 かつて存在した水の水素イオン濃度(pH)は中性でした。また、バクテリアがエネルギー源として利用していた可能性のある、ほかの化学物質も発見されました。そのためNASAでは、35億~40億年前のいずれかの時点に、そこに湖があり、火星のその辺り、そしておそらくは他の場所にも生物が生息可能な環境が存在したとの結論に達しました。

◆ギリシャ神話のマーズ神や火星人の襲来、等々、火星は昔から男らしさや戦争と関連付けられてきました。このことが火星についての誤った理解につながっていると思いますか?

 たしかに火星の赤い色は怒りや血を思い起こさせます。しかしキュリオシティの調査によって、地球で生命が誕生したのと同じころ、火星もまた生物が生息可能な環境であった可能性が見えてきました。むしろ、生息のための条件は当時の地球よりも良かったのではと考えられています。生命は火星で誕生したという説さえあるほどです。小惑星など、生物を含む隕石が火星に衝突して、宇宙空間に散らばり、地球に到着。そして(地球上の)生命が誕生した、というわけです。

 つまり、私達は全員が火星人なのかもしれません。これこそがキュリオシティのもたらしたメッセージなのだと私は考えます。火星は男性的で荒々しい不毛の地などではなく、私達の母なる星かもしれないのです。

Photograph courtesy of National Geographic Books

文=Simon Worrall

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