巨大なアリ塚を築くシロアリの集合精神

2014.08.07
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ナミビアのシロアリ塚。アリ塚の中には泡のような多数の小室があり、枝分かれする通路で繋がっている。右上は女王アリ。最大15年ほどの生涯で、数億個の卵を産み落とす。

Photographs by Frantisek Staud / National Geographic; (inset) Mark W. Moffett / National Geographic
 J・スコット・ターナー(J. Scott Turner)氏は過去26年間にわたり、シロアリのアリ塚をプロパンガスで満たし、レーザーでスキャンし、石膏を充填してきた。シラキュースにあるニューヨーク州立大学環境科学森林学カレッジのこの動物生理学教授が行ってきたことは全て、生物学のある謎を探求するためのものだ。小さなシロアリがどうやってこんな途方もない構造物を作り上げるのだろうか? 100万匹、200万匹という集団になるとシロアリは恐るべき建築家で、5メートルかそれ以上にもなるアリ塚を築き上げる。典型的なアリ塚では、総重量15キロ程度のシロアリが毎年250キロの土と数トンの水を運ぶ。

 アリやハチなどの社会性昆虫と同様にシロアリは社会の中で生きているが、そこではコロニーの集団の力が個体の力をはるかに凌駕する。超個体の一部となることで、小さなシロアリは強大な力を得る。しかしシロアリのアリ塚は、監督のいない建設現場のようなもので、計画の責任を担うシロアリは存在しない。コロニーの集合精神で符号化される“共同計画”があるのだろうか?

◆いつでも修復できる態勢

 シロアリのアリ塚は出来上がるまでに4~5年を要するが、非常に激しい豪雨では、アリ塚の3分の1が崩壊するおそれもある。そのためシロアリは、雨でアリ塚が侵食された場合できるだけ早く修復できるように、いつも慌ただしく動きまわっている。

 アリ塚に穴を開けると、穴からシロアリがあふれ出てくる。兵隊アリはその大顎を広げ戦闘に備え、働きアリは口いっぱいに土を詰め込んで穴を塞ぎに駆けつける。彼らはアリ塚に穴が開いていることを、どうやって知るのだろうか。

 ターナー氏の研究室で行われた実験では、わずかな空気の動きや、湿度や二酸化炭素などの気体濃度変化にシロアリが反応することが示唆されている。

 撹乱の兆候が見られると、すぐにシロアリはその情報を接触や振動で伝えに走る。呼び起こされた多数のシロアリは、口いっぱいに土を詰めて問題の原因となっている場所へ向かう。この騒ぎでさらに多くのシロアリがさらに多くの土を持って駆けつけ、穴は1時間かそこらで補修される。

◆内部をのぞく

 アリ塚の上部をバックホーで削り取り、残りの部分をおもちゃの家の壁を引き剥がすように分解していくと、潰れたサッカーボールくらいの大きさの高密度な土の塊が取り出せる。女王の部屋だ。

 その中にいる女王の湿った体は、人間の指くらいの大きさにまで膨れている。仲間の働きアリは、女王が産む卵を3秒に1個という驚くべきスピードで、隣の育児室へ運ぶ。また別の働きアリは、女王に餌を与え、体を清潔にする。

“女王”という称号から、彼女がアリ塚の管理を担っているように想像しがちだが、それは誤解だ。一人は皆のために、皆は一人のために、という超個体の縮図が女王だ。彼女は捕らわれた卵巣であり、最長15年の一生の間に何億もの卵を産み、アリ塚に住民を送り込み続ける。

◆キノコ栽培

 女王の部屋の下には、超個体の最も大きな器官であるキノコ農園が広がっている。キノコは発芽すると、木や草の固いセルロースを高エネルギーの部分消化された混合物へと分解する。シロアリにとってキノコはある意味で外付けの胃のような役割を持つが、キノコはそれ以上に肥料、水、シェルター、保護といった複数の恩恵に預かっている。

 全体で見るとコロニーのキノコは、アリ塚内の全代謝の85%近くを占めている。ターナー氏は、キノコがシロアリに化学的信号を送り、それがアリ塚建設に影響を与えている、もしくはコントロールしているのではないかと推測している。

◆居住空間

 ターナー氏の言葉を借りれば“ガス交換の副器官”だ。アリ塚の1~2メートル下にある地下コロニーで必要な呼吸が行える造りになっている。

 長年、研究者たちはシロアリのアリ塚を見て、その尖塔は熱い空気を上昇、排気させる煙突のような働きをしているのではないかと考えてきた。しかしターナー氏は、アリ塚の機能はむしろ肺に似ていて、一見何も通さないように見えるが実はかなり多くの穴が開いている壁を通して、息を吸ったり吐いたりしていることを発見した。

 混合気体を調整し、巣の環境を一定に維持するため、変化する状況に応じてシロアリは絶えずアリ塚をリフォームし続けている。

◆集団脳

 ハーバード大学でロボット工学を専門とするラディカ・ナグパル(Radhika Nagpal)教授は、シロアリの行動を脳に例えている。個々のシロアリは考えるというより反応しているだけだが、集団レベルではある意味周囲の環境を認知しているように振る舞う。同様に脳では、個々のニューロンが考えているわけではないが、そのつながりの中で思考が発生する。

「これは、複雑性が最も重要なシステムだ」と、ターナー氏はシロアリの行動について語る。「複雑性を捉えなければ、それを理解することは望めないだろう」。

PHOTOGRAPH BY FRANTISEK STAUD / NATIONAL GEOGRAPHIC

文=Lisa Margonelli

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