スペインかぜ5000万人死亡の理由

2014.05.02
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1918年、ワシントンD.C.のウォルター・リード病院でインフルエンザ患者の脈を取る看護婦。

Photograph by Harris & Ewing Inc. / Corbis
 人類の医学史上、最も大きな謎の一つを解明したかもしれないと研究結果が4月28日に発表された。1918年に大流行したスペインかぜ(インフルエンザ)では世界中で5000万人が死亡したが、犠牲者が主に若い健康な成人だったのはなぜなのか、これまで明らかになっていなかった。 答えは驚くほどシンプルだ。1889年以降に生まれた人々は、1918年に流行した種類のインフルエンザウイルスを子どもの頃に経験(曝露)していなかったため、免疫を獲得していなかったのだ。一方、それ以前に生まれた人々は、1918年に流行したインフルエンザと似た型のウイルスを経験しており、ある程度の免疫があった。

 今回の研究に携わった科学者らは、ヒトと鳥のインフルエンザ株の遺伝子が混じった1918年型ウイルスの構成要素がどう進化して来たかに着目した。1830年まで遡り、優勢なインフルエンザ型の移り変わりを明らかにした。

 進化生物学者らは、1889年にA型インフルエンザH3N8亜型、通称アジアかぜ(ロシアかぜとも)が世界中で流行したことで、子どもの頃にH1N1株のスペインかぜに似た型のウイルスを経験する機会を持たなかった世代があることに気づいた。インフルエンザウイルス亜型の名称におけるHとNは、それぞれヘマグルチニン(hemagglutinin)およびノイラミニダーゼ(neuraminidase)という蛋白質を表す。

 1900年以降、スペインかぜに似たH1亜型が流行したことで、それ以降に生まれた子ども達には部分的な免疫ができ、ウイルスに対する「脆弱性の窓」が閉じた。

 研究を主導したアリゾナ大学の生物学者マイケル・ウォロビー(Michael Worobey)氏は、「史上最悪のインフルエンザのパンデミックで罹患者が最も多かった高齢者は、基本的にほとんどが生き残った」と述べる。一方で、18~29歳の年齢層では大量の死者が出て、罹患者の200人に1人の割合で亡くなっている。

 専門家らは、1918年におけるパンデミックの発生を脆弱性の窓という観点から部分的に説明できるのではないかと考えている。コロンビア大学のウイルス学者、ビンセント・ラカニエロ(Vincent Racaniello)氏によると、今回の新しい研究ではコンピューター解析によって1918年型インフルエンザウイルスの前駆体が1907年頃に発生したことが判明した。このことで、脆弱性の窓がどのようにして開き、また閉じたかが説明できるという。

 この発見は、猛威を振るう鳥インフルエンザがヒトへ感染するのではという不安の高まる中、将来のパンデミック予防に役立でられる可能性がある。

 また、インフルエンザワクチンの摂種法も変わる可能性がある。現在のようにそのシーズンに流行が予想されるウイルスに対してワクチンを摂取するのではなく、子どもの頃に免疫を獲得できなかった株に対してワクチン接種を行うようになるかもしれない。

◆インフルエンザ流行型の変動

 季節性インフルエンザウイスは通常、ヒトの集団において数十年間、優勢型として流行するが、新型インフルエンザの発生によって活動性を失うことがある。たとえば、2009年のH1N1亜型によるパンデミックはアメリカ疾病予防管理センターの発表によると世界中で28万4千人の死者を出し、この型は現在、優勢となっている。

「シーズンごとにインフルエンザの流行型が変動するのは普通のことで、毎年新たなワクチンを開発するのもそのためだ」と、シアトルにあるワシントン大学の免疫学者、マイケル・ゲール・ジュニア(Michael Gale Jr.)氏は述べている。

◆万能ワクチン

 今回の研究結果を受け、将来のインフルエンザワクチンは、対象者の年齢を目安としてインフルエンザに罹患しやすい子どもの頃に経験しなかった型へ焦点を当て、成分を調整したものとなるかもしれない。

 また、あらゆる型のインフルエンザを予防する万能ワクチンが実現する可能性もありそうだ。

 研究結果は「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌で公開された。

Photograph by Harris & Ewing Inc. / Corbis

文=Dan Vergano

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