映画『ブラックフィッシュ』の波紋

2014.01.17
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シーワールド・オーランド(SeaWorld Orlando)の入り口。2010年2月24日、女性トレーナーがシャチに襲われて死亡した事故の直後に撮影。

Photograph by Matt Stroshane, Getty
 ガブリエラ・カウパースウェイト監督がドキュメンタリー映画『ブラックフィッシュ(Blackfish)』の製作に着手したとき、彼女はシーワールドを変えようとして始めたわけではなかった。シーワールドで一番大きいシャチ「ティリクム」が、なぜ経験豊富なトレーナーであるドーン・ブラチョワさんを2010年2月に殺すに至ったのか、事実に基づいた説得力のある映画を作りたかったのだ。 この映画が広く公開されると、映画に触発されてシャチの捕獲に対して声を上げたり実際に行動を起こす人たちがたくさん現れ、製作関係者はみな感銘を受けると同時に驚きを隠せずにいる。非公式には「ブラックフィッシュ効果(Blackfish effect)」と呼ばれている現象だ。

『ブラックフィッシュ』では、ティリクムの半生とそれに交錯するドーン・ブラチョワさんの悲劇的な死について語られている。同時に、シーワールドの「シャム」と呼ばれるシャチのショーの裏側を描き、ショーがシャチとトレーナーにとってどんな意味を持つのかという洞察を与えている。シーワールドはこの映画を「事実と反する恥ずべきもの、故意に見る人を間違った認識へ導くもので、科学的にも不正確」と評し、『ブラックフィッシュ』で暴露された内容について反論した。

 この反撃とは逆に、今週『ブラックフィッシュ』を後押しするニュースがあった。1月16日、アカデミー候補作品が発表され、この映画が長編ドキュメンタリー映画賞の最終候補作リストに入ったのだ。正式にノミネートされたことで強力な追い風となり、再度注目を集めることになりそうだ。『ブラックフィッシュ』を観た人はすでに数百万人にのぼっている。『ブラックフィッシュ』では生け捕りから始まり、シャチが受ける肉体的、社会的ストレス、母親から引き離される子供、トレーナーを攻撃するシャチなどの実態が描かれている。その映像と情報は、シャチショーをただの楽しい娯楽だと思っていた多くの観客に驚きと衝撃を与えた。

 シーワールドおよびシャチを使ったショービジネスに対する批判は、草の根運動として始まったのちに大きな民衆の力として広がり、『ブラックフィッシュ』の関係者は皆大きな喜びに包まれている。映画が広く反響を集めるというのは、最高に栄誉あることだ。しかしそれ以上に重要なのは、ブラックフィッシュ効果が実際にシーワールドとシャチショービジネスに対して長期的な影響を与えることができるのかという問題だ。

 ブラックフィッシュ効果は、数十人の著名人が『ブラックフィッシュ』を観て彼らのシーワールドに対する見方が変わったことをツイッターでつぶやいたことから始まった。

 ブラックフィッシュ効果が顕著になったのはソーシャルメディア上でのことで、特にChange.orgという署名収集サイトが重要な役割を果たした。昨年後半に『ブラックフィッシュ』の支持者と動物愛護団体は、『ブラックフィッシュ』で明らかにされた問題を考慮して、ベアネイキッド・レディースは2014年2月にシーワールドで開催される予定のコンサートへの出演を考えなおすべきだという署名運動をChange.org上で始めた。すぐに1万件の署名が集まり、これを受けてバンドはコンサートを中止した。

 Change.orgでは、他のミュージシャンに対してもシーワールドでのコンサートを中止するべきだとの請願が相次ぎ、現在のところウィリー・ネルソンやチープ・トリックなど、9組の歌手とバンドが撤退している。

 シーワールドの関係企業を標的としたキャンペーンもまた、ブラックフィッシュ効果の一環として大きな意味を持っている。Change.orgでは、サウスウエスト航空はシーワールドとの数十年にわたる協力関係を終わりにすべきだという請願書が掲載された。先週この請願書は2万7000件の署名を集め、サウスウエスト航空へ届けられた。

 これに対するサウスウエスト航空のコメントは「現段階ではシーワールドとの協力関係は継続する」というものだったが、明確な立場ではないようだ。

 その他、コカ・コーラやヒュンダイがシーワールドの主要な企業パートナーとなっている。Change.orgによると、ブラックフィッシュ関連の請願書は現在24以上当該サイト上に存在し、数カ月でトップクラスに反響の大きいキャンペーンとなっているようだ。

 しかし、最終的に来場者数と収入の減少によってシーワールドの営業方針を変えさせることができなければ、ブラックフィッシュ効果に意味があったとは言えない。

 実質ブラックフィッシュ効果が現れ始める直前の2013年の1月から9月の集計では、シーワールドの報告によると、水族館への来場者数は前年同時期比4.7パーセント減。シーワールドの株価は7月の高値から約30パーセント下落し、10月からは停滞している。

 一方で、2013年1月から9月の収益は前年比2パーセント増となっている。さらに10月から12月はブラックフィッシュ効果が最高潮の時期であったが、シーワールドによると水族館への来場者数は過去最高レベルで、近く報告される2013年の収益も記録的なものになる見込みだ。

 結局のところ、ブラックフィッシュ効果が本当に効果のあるものだったかどうかは、時間をかけてシーワールドの最終損益に実質的な影響を与えることができたかどうかを見なければ判断できない。シーワールドはビジネスなのであって、シャチショーを続けるよりも撤退した方が収益を上げられるという結論にシーワールドが至った場合、ようやく真の変革がもたらされるのだ。もし実現すれば、『ブラックフィッシュ』は観客に影響を与えた以上のものとなり、ブラックフィッシュ効果は意味を持つことになる。

Photograph by Matt Stroshane, Getty

文=Tim Zimmermann and Victor Ocasio

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