実験に使われた海綿動物。(Photograph by Sally Leys and Danielle Ludeman)

「はくしょん」と声を出すことはないが、最新の研究によれば、海綿動物は“くしゃみ”をするという。単純な水生生物は想像していたより複雑なようだ。

 海綿動物は海水、淡水の両方で動かずに暮らしている。神経系も消化系も持たない。脊椎のない穴だらけの体には大孔と呼ばれる開口部があり、そこから排泄物を洗い流している。あまり面白みのない動物だ。

 ただし、見た目ほど単純ではないようだ。大孔の中に無数に生えた指のような線毛繊毛のおかげで、周囲の環境に反応できるという。

 人間にも線毛があり、くしゃみに使われている。まず、異物を吸い込むと、鼻腔と副鼻腔のセンサーが感知する。そして、内部に並ぶ線毛に信号を送り、異物を排出させる。

 海綿動物の場合、この“指”が水中の化学物質などの異物を感知すると、体全体をくしゃみのように収縮させ、水と化学物質を吐き出すよう信号が送られる。

 研究に参加したカナダ、アルバータ大学のダニエル・ルードマン(Danielle Ludeman)氏は、「実験を開始したとき、海綿動物が周囲の環境に敏感に反応することにとても驚いた。ごく弱い振動でくしゃみをすることもあった」と振り返る。

脳の進化の解明にも

 海綿動物は感覚細胞すら持たないため、専門家たちにとって今回の研究結果は予想外だった。

 海綿動物の進化について研究しているドイツ、ミュンヘンのルートヴィヒ・マクシミリアン大学のガート・ウォーハイド(Gert Worheide)氏は、「海綿動物が予想より洗練された動物であることを明確に示す包括的な研究であり、とても興奮している」と述べている。

 原始的な海綿動物の場合、線毛は感覚器のような役割を果たしているのかもしれない。進化の歴史において初めて登場した複雑な感覚系だった可能性もある。

 原始的な海綿動物の感覚系が発見されたことは、ほかの生物における脳の進化の解明につながるかもしれないと、研究チームは期待している。

 研究を率いたアルバータ大学のサリー・レイズ(Sally Leys)氏は、「くしゃみは気持ちのいい行為だ。そして、初期の多細胞動物が進化する過程でどのように協調のシステムが生まれたかを理解する最高の助けにもなる」と述べている。

 今回の研究結果は「BMC Evolutionary Biology」誌に1月12日付で発表された。

文=Karl Gruber