米NRC、急激な気候変動の監視を提唱

2013.12.04
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北極の海氷:1979~2013年、毎年9月の月間平均量の推移。単位は100万平方キロ。

Graph by NG Staff. Source: NSIDC
 現在進行中の気候変動はやがて“転換点”を迎え、“急激な”影響がもたらされるのではないかと専門家らは懸念している。そのリスクは現実的なものであるとして、専門家によるパネルがこのほど、気候変動を初期段階で感知する監視システムの構築を提唱した。 地球温暖化から災害につながる“転換点”を検討している全米研究評議会(NRC)のパネルが、このほど“急激な気候変動”の影響に関する報告書を作成した。そこでは、今後数十年間の注意すべきリスクとして、海水面の急激な上昇、水不足、生物種の絶滅を挙げている。

「気候変動は実際に今まさに起こっていることで、対処しなくてはならない。その第一歩は、われわれが急激な影響の手前のどの地点にいるのかを認識することだ」と、パネルを率いたコロラド大学ボルダー校のジェームズ・ホワイト(James White)氏は言う。

 報告書では急激な気候変動の影響を初期段階で警告するシステムの構築を提唱しており、干ばつや洪水などを警告する既存のシステムと統合して運用すべきだと考えている。

 今年9月にはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が報告書を発表し、化石燃料の使用などの産業活動が地球温暖化の原因である“可能性が非常に高い”との結論を示した。

 気候変動とそれに伴う急激な災害への懸念は、気候科学の分野で過去10年以上にわたって議論されてきた。中でも有名なのは2002年のNRCの報告書と、コロンビア大学の気候科学者ジェームズ・ハンセン(James Hansen)氏の警告である。

 今回のNRCの報告書はいくつかの点でこれまでのものとは異なっている。まずは地球温暖化の継続を避けられないものとして考慮したこと、そして氷河の融解や干ばつといった自然環境への影響だけでなく、人類やその他の動物に関する影響をも検討したことである。

「この報告書は、過去のものとは一線を画している。というのは、ささいではあるが継続的な気候変動(たとえば気温の上昇など)から、急激な環境の変化が起こりうるとして、その可能性を検討しているからだ。この報告書は重要な点を突いていると思う」と、オレゴン州立大学の地球科学者ピーター・クラーク(Peter Clark)氏は言う。クラーク氏は今回のパネルには参加していない。

◆今後数十年間に予測されているリスク

 NRCのパネルでは、西南極氷床の融解や海中酸素濃度の急激な低下など、さまざまな急激な気候変動について検討した。

「現在の気候変動は、おそらく過去6500万年に起こったどんな危機的な出来事よりも急速に進行している。そのペースは今後30~80年の間、さらに加速を続けるものと予想される」と報告書にはある。

 報告書では今後数十年間に、北極地方で海氷が夏場に消失したり(この現象はすでに起きはじめている)、海洋および陸上で生物種が絶滅したりするリスクは高いと予測している。

 一方で、急激な環境変動が農地に影響を及ぼしたり、広い範囲で野生生物の生息環境を脅かしたりするリスクは“中程度”だと評価されている。

◆未知のリスク

 西南極氷床が広範囲にわたって突然海中に流出するようなことがあれば、全世界で海水面が3~4メートル上昇する。報告書では、これほどの大災害のリスクは“未知”であるとしながらも、今世紀中に起こる可能性はおそらく低いとしている。

「未知というのは、このリスクについて集中して検討しなければならないということだ。リスクに目をつぶっていてよいということではない」と、パネルを率いたホワイト氏は言う。

 今回の報告書では、過去に検討されてきた急激な気候変動シナリオのいくつかはあまり重視されていない。たとえば大西洋の海流が突然停止するとか、北半球に固体の状態で埋蔵されているメタンガスが突然放出されるとかいったものだ。

 クラーク氏は、最新の調査結果に基づき、こうしたリスクは低いものと判断したと言う。

 アメリカ地質調査所(USGS)のトマス・クローニン(Thomas M. Cronin)氏は、今回の報告書の結論の一部に懸念を示している。報告書には、突然の気候変動によって海中のサンゴや熱帯林の生物種が死滅する可能性があると書かれているが、後者については「人類の活動の影響なのか、もともと絶滅の起こりうるタイミングだったのかを分けて考えるのは難しい」とクローニン氏は言う。

 そのクローニン氏も、今回の報告書が海流の停止やメタンガスの放出の可能性を重視しなかったことに関しては賛同している。

◆監視システム構築への提言

 このように一部に見解の相違がみられることからも、海水および海氷の温度や、生物種や気象条件などについて、世界的な監視システムを増強する必要性は明らかであるとホワイト氏は指摘する。

「いま何が起こっているのかについては、よく把握しておくに越したことはない。ところが、一番必要な時期なのに、気候監視システムへの資金提供は減少している」とホワイト氏は言う。

 今回の報告書では、急激な気候変動を初期段階で監視するシステムにどれだけコストがかかるかを示してはいない。ただしホワイト氏は、昨年680億ドルの被害をもたらしたハリケーン「サンディ」を引き合いに出して、こう述べる。「沿岸部には数兆ドル規模の資産が設置されており、リスクにさらされている。(監視システムの)コストは、それに比べれば小さなものだ」。

Graph by NG Staff. Source: NSIDC

文=Dan Vergano

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