ノーベル賞はなぜ注目されるのか

2013.10.11
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ノーベル賞は、アルフレッド・ノーベルがパリでしたためた遺言状に基づいて創設された。初めて授与された1901年以来、世界各国から受賞者が輩出している。自然科学部門は当初、ヨーロッパ出身の科学者が圧倒的多数を占めていたが、第2次世界大戦以降はアメリカ出身の研究者が優勢を誇っている。そして今後の数十年は、アジア出身の研究者も数多く受賞すると予想されている。

Charts by Juan Velasco and Kelsey Nowakowski/National Geographic
 世界の科学者にとって最も栄誉あるノーベル賞。今年も自然科学部門の受賞者が出揃った。 医学生理学賞を受賞したのは、ジェームズ・ロスマン、ランディ・シェクマン、トーマス・スードフの3氏。いずれもアメリカの研究者で、細胞内における物質輸送の仕組みを解明した功績が評価された。

 物理学賞は、謎のヒッグス粒子の存在を初めて提唱したベルギーのフランソワ・アングレール氏とイギリスのピーター・ヒッグス氏が受賞。両氏には内外から賞賛の声が寄せられ、ここ数十年では最も順当な受賞結果との評判だ。

 また化学賞は、アメリカのマイケル・レビット、アリー・ワーシェル、マーティン・カープラスの3氏に授与された。

 ノーベル賞は“ダイナマイト王”、スウェーデンのアルフレッド・ノーベルの遺言に従って創設された賞である。1901年以来、スウェーデン王立科学アカデミーとストックホルムにあるカロリンスカ研究所が受賞者を発表する。それにしても、われわれはなぜこれほど高い関心を抱くのだろうか。

 ロイター通信のサイエンスアナリスト、デイビッド・ペンドルベリー氏は、「数ある賞の中でも別格」と話す。

◆ノーベル賞の突出した知名度

 科学史家の故バートン・フェルドマン氏は、自著『The Nobel Prize: A History of Genius, Controversy, and Prestige』でこう述べている。「権威という点では、ノーベル賞に比肩するような賞はいくつもある。しかし、受賞者が手にする賞金や名声に加え、対象分野の多様さと100年以上もの歴史を兼ね備えているとなると見当たらない」。フェルドマン氏は、ノーベル賞の"突出した知名度"には、授賞者側の戦略だけでなく時の巡り合わせも大いに関係していると指摘。

 まず、受賞者には高額の賞金が贈られる。2013年は各賞およそ1億2000万円(受賞者が複数の場合は按分される)。そして毎年12月に行われる授賞式では、スウェーデン国王カール16世グスタフから直接、賞が授与される。富と名誉を同時に手にする機会は、現代人が最もうらやむことではないだろうか。

 一方、ノーベル賞は最も古くからある国際的な賞の1つだが、創設は第1次世界大戦の勃発前、世界各国の間で緊張が高まっていた時期だ。「科学は言葉の壁を持たない万国共通の営みである。互いに対抗心を燃やす国々は毎年、どの国の研究者が受賞するのか、かたずを飲んで見守っていた」。フェルドマン氏はそう述べている。

◆キュリー夫人の影響力

 もちろん、ノーベル賞の名を世に広めた要因は人々の愛国心だけではない。特に物理学賞の場合は、受賞者の著名性に負うところが大きい。特に注目されるようになったのは1903年、ピエール・キュリーとその夫人のマリ・キュリーにノーベル物理学賞が授与されてからのことである。キュリー夫人は「放射能」という言葉の提唱者であり、歴史上最も有名な科学者の1人だ。

『お母さん、ノーベル賞をもらう』の著者シャロン・マグレイン(Sharon McGrayne)氏はこう語る。「1903年にキュリー夫人が受賞してから、本人のみならず、自然科学部門の受賞も脚光を浴びることになった」。マグレイン氏によると当時、物理学、化学、医学は、いずれも一般庶民には難解過ぎると考えられており、報道の対象となったのは文学賞と平和賞だけだったという。

 フェルドマン氏の著書によるとその後、貧しい生活環境の中で赤ん坊の世話をしながら研究を成し遂げたキュリー夫人の苦労談にも世間の注目が集まることになる。

「私利私欲に縁のない学問の探求、科学が人間にもたらす恩恵、1人で困難に立ち向かった末の勝利。彼女はそのすべての象徴となった。これ以上ない賛辞である。こうして1903年の末、夫人は世界で最も有名な科学者となり、同時に自然科学部門のノーベル賞も世間に広く認知されるようになった」。

◆時代とともに変化を

 100年以上の歴史を持つノーベル賞は創設以来、年ごとに特定の功績を挙げた研究者に授与されるが、受賞者は各分野で3名以内と定められている。しかし自然科学における現代の研究手法を考えると、この制約は時代にそぐわなくなってきているように思える。

 ヒトゲノム計画や欧州原子核研究機構(CERN)によるヒッグス粒子の存在検証プロジェクトを始め、最新の科学研究は大人数のチームが関わる場合が多い。前述のペンドルベリー氏は、2007年の平和賞が「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」に授与されたように、自然科学部門も特定の個人ではなく研究機関を対象にすることを検討すべきだと指摘している。

Charts by Juan Velasco and Kelsey Nowakowski/National Geographic

文=Dan Vergano

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