先史人類が着た衣服、服装の起源を探る

2013.09.12
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復元されたネアンデルタール人の女性(資料写真)。

Photograph by Joe McNally, National Geographic
 衣服の起源はどこにあるのか。この単純な問いに答えるべく、今も世界中の考古学者たちが、より古い服飾類の遺物を求めて発掘作業を続けている。 だがこの問いは、単純であるがゆえにかなりの難問だ。映画や漫画などに登場する原始人は獣の毛皮を身にまとっている場合が多いが、実際はよくわかっていない。衣服を身に付ける行為は人類だけの特徴だが、その習慣が発達した経緯を解明しようという試みはまだ始まったばかりだ。

 衣服が化石として残るケースはほとんどなく、骨を取り巻く軟組織と同様あっという間に朽ち果ててしまう。だが研究者たちは、染色された植物繊維や衣服に寄生していたシラミなど間接的な証拠物を手掛かりに、先史人類の服装を断片的にではあるが明らかにしつつある。

◆先史時代の衣服

 古代の服飾類で特に古い遺物には、アメリカのオレゴン州で出土した樹皮の繊維を素材とする約8000年前のサンダルや、エジプトの約5000年前のシャツやビーズ付きドレスがある。また、アルプス山中で発見された約5300年前のミイラ、アイスマン(エッツィ)が身に付けていた獣皮と干草の編み靴、毛皮の上着、皮製のゲートルや下着などが知られている。だがフランス、ボルドー大学の考古学者レベッカ・ラグ・サイクス(Rebecca Wragg Sykes)氏によれば、さらに古い年代の遺物が必要で、この程度では不十分なのだという。

 例えば、ロシアで発見された約2万8000年前の墓をはじめ、先史時代の墓からは、衣服の装飾用と見られるビーズや歯など、当時の服飾を伺わせる遺物がわずかながら見つかっている。

 しかし、これらはみな被埋葬者用の衣服だ。先史時代の人々が日常生活の中でどのような衣服を身に付けていたのか、まだ明確な結論は出ていない。一方、数万年前の人類が衣服を仕立てていた間接的な証拠はいくつも存在する、とサイクス氏は話す。

 アメリカ、ジョージア州の洞窟群からは、約3万年前の植物繊維が見つかっている。ピンクや黒、青に染められており、当時の布地作りに関する手掛かりになるだろう。また、約2万年前の骨針も発見されているが、おそらく衣服や装飾品の縫製に使われたのだろう。

 先史時代の人々を描いた想像図などでは、粗雑な毛皮を身にまとう姿が大半だ。だが考古学的資料から判断すると、2万5000年前には、既に複雑な衣服が作られていたとサイクス氏は指摘する。

◆ネアンデルタール人も服を着ていた

 ところで、先史時代の人類はわれわれホモ・サピエンスだけではない。近縁種とされるネアンデルタール人も間違いなく衣服を着ていたと考えられており、興味深い研究が行われている。

 2012年、アメリカのコネティカット大学で人類学を専攻する大学院生ネイサン・ウェールズ(Nathan Wales)氏は、ネアンデルタール人が着用していた衣服について詳しい分析を試みた。

 ウェールズ氏はまず有史以降、狩猟採集生活を営んでいた245の文化圏に見られる服装の特徴と、それぞれの生活環境条件を調査。氷河期の間、特に寒冷な地域で暮らすネアンデルタール人は体表の80%以上を衣服で覆う一方、気候にふさわしいものではなかったいう仮説を立てた。

 ネアンデルタール人に比べて、現生人類は寒さに対する耐性が低い。そのため、防寒効果のある衣服を仕立て、それに身を包んで冬の寒さをしのいだと推測したのだ。

 その後われわれ現生人類は生き残り、ネアンデルタール人は絶滅する(身体的、文化的な観点から見た場合、ネアンデルタール人の遺伝子は現生人類に受け継がれている)。原因はいまだ不明だが、ウェールズ氏は両者の服装文化の違いが何らかの影響を与えているのではないかと考えている。

 いずれにせよ当時、両者とも何らかのスタイルを確立していたことは必然的だ。もし自分たちの子孫が都会でまとう、毎年移り変わる奇抜なファッションを見たとしたら? 彼らがどう思うかは想像するに難くない。

Photograph by Joe McNally, National Geographic

文=Brian Switek

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