インドのトラ、保護のカギは“回廊”

2013.07.31
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インドのベンガルトラ。繁殖の相手を遠くの生息域に求めて、“回廊”づたいに移動していることが、最新の研究で明らかになった。

Photograph by Frans Lanting, National Geographic
 インド中央部のトラは、生息域である森が縮小し分断されつつあるという問題に直面している。現在、トラたちは離れた地域の個体群と行き来することで、どうにか個体数を保っているということが最新の研究で明らかになった。 スミソニアン保全生物学研究所(SCBI)のサンディープ・シャルマ(Sandeep Sharma)氏らのチームは、トラの体毛や排泄物といったサンプルを用いて、インドのサトプラ=マイカル地域(面積約4万5000平方キロ)に住む、273頭のトラの個体の遺伝子調査を行った。

 トラ保護区(TCL)に指定されているこの地域には、それぞれ独立した4つの個体群があり、それぞれが固有の生息域で暮らしていると考えられていた。ところが遺伝子調査の結果は意外なものだった。生息域のうちの2つは、森や未開墾の土地からなる全長200キロの“回廊”でつながっており、遺伝学的には1つのまとまりと見なされることが分かった。残る2つの生息域も、同様に連結していた。こうすることで、血縁の近すぎる個体との交配が避けられている。

 これらの回廊はトラという種の保存にとって、もう1つ重要な役割を担っているとシャルマ氏は言う。「(回廊で)つながっている個体群のうち一方の個体数が、例えば密猟などの要因で減ったとしても、もう一方の個体群が数を増やし、地域全体に広がっていく」。

 しかしこれらの回廊を早急に保護しなければ、いずれ開発されてしまい、トラたちはそれぞれの生息域に孤立してしまう。もしそうなったらトラはやがて絶滅してしまうだろうとシャルマ氏は言う。

◆トラの家系図

 シャルマ氏らのチームは、サトプラ=マイカル地域のトラの個体群の系譜を調査した。その結果、この地域では2度にわたって、遺伝的集団が短期間のうちに分割されていることが分かった。2回とも、歴史的事件が関係している。

 1度目は約700年前のことで、外来民族がこの地域に侵入し、渓谷を開墾して農業に力を入れ始めた時期とおおむね一致するとシャルマ氏は言う。ただしこの時期は、トラにとっての問題は生息域の消失のみであった。

 シャルマ氏によると、2度目は約200年前のことになる。大英帝国の進出によって、材木の確保のために大規模な伐採が行われたのに加え、銃などが大量にもたらされたため、狩りの犠牲となるトラの数が飛躍的に増えた。

 シャルマ氏らのチームはデータをもとに、トラの遺伝子流動の現状を、約2000年前のパターンと比較した。その結果、過去に見られたのと同等の遺伝子流動を今なお維持しているのは、回廊によってつながっている個体群のトラのみであることが分かったとシャルマ氏は言う。回廊を失った地域では、「遺伝子流動は有意に減少している」とのことだ。

◆トラとの共存

 今回の研究は、過去と現状に光を当てることで、今後の保存プログラムがどこに重点を置けば良いか、ロードマップを示してくれている。個体群どうしをつなぐ回廊が切断されないよう保護することがカギとなる、というのが論文の著者らの見解だ。

 だが現状では、これらの回廊は法的には保護されていない。今年、インド環境森林省がコール・インディア社に対し石炭採掘のための開発を許可した地域には、トラの回廊の一部が含まれている。

 当局は、採掘は地下で行われるためトラの移動の妨げにはならないとの見解を表明している。しかしシャルマ氏は懐疑的だ。採掘に伴って、関係者の住居や道路などのインフラが整備されれば、回廊の存続にとって大きな脅威となりかねないとシャルマ氏は指摘する。

 ナショナル ジオグラフィック協会のエマージング探検家で、同協会のビッグキャッツ・イニシアチブ(Big Cats Initiative)にも参加しているルーク・ダラー氏は、こうした難問はネコ科の大型動物の生息域につきものだと語る。「インドでもアフリカでも同じだ。ネコ科の動物と人間は、土地と生存をめぐる闘争で衝突している」。

◆人間による極端な介入

 個体数が極端に減ってしまった場合、近親交配を避けるためには人間による極端な介入が避けられなくなるとダラー氏は言う。

 例えば1995年には、個体数が減り近親交配の進んだフロリダパンサーをよみがえらせるため、交雑を狙ってテキサス州の野生のピューマを放った事例がある。

 野生動物の回廊を保護すれば、このような極端な手法を回避でき、それでいて個体数の回復を見込める。

「保存に関しては、1頭1頭の個体ではなく、種全体としての遺伝的健全性を問題にする。そしてこの問題には、回廊が重要な役割を果たしている。(回廊のおかげで)遺伝子交換が可能になり、十分な個体数の維持につながる」とダラー氏は言う。

◆「人の波の合間を漂う」

 シャルマ氏は、トラの保護においては、個体群を個別に見るのではなく、回廊でつながった1つの大きな個体群として管理する必要があると力説する。

「インドは世界で2番目に人口が多い。これらのトラは、人の波の合間を漂っているようなものだ」とシャルマ氏は言う。

「トラの生息域を新しく作ることはできない。唯一の希望はこれらの回廊に託されている。もし回廊が切断されれば、個体群は分断され、やがてトラは歴史の教科書の中の生き物になってしまう」。

 インドのトラの生息域に関する今回の研究は、「Proceedings of the Royal Society B」誌9月22日号に掲載される。

Photograph by Frans Lanting, National Geographic

文=Brian Handwerk

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