寄生バチ、宿主のゴキブリを抗菌消毒

2013.01.08
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
エメラルドゴキブリバチのメス(右)が、幼虫の宿主にするゴキブリを運んでいる。メスはこの後、ゴキブリの脚に卵を産み付ける。

Photograph courtesy Gudrun Herzner via PNAS
 冷蔵庫から殺菌、手洗い、衛生検査まで、人間は食中毒を避けるためにあらゆる対策を惜しまない。最新の研究によれば、寄生性のエメラルドゴキブリバチ(学名:Ampulex compressa)も、独自の方法で“食の安全”を確保していると判明した。抗菌物質を組み合わせて、エサのゴキブリを清潔にするという。 エメラルドゴキブリバチは繁殖の際、メスがワモンゴキブリ(学名:Periplaneta americana)の脚に卵を産み付ける。孵化した幼虫はゴキブリの腹部に穴を開け、体内に移動。内臓を食べた後、死骸内部で繭をつくり、成虫になって外へ出る。

 ところが、ゴキブリは不衛生な環境に暮らしているため、細菌やウイルス、菌類も住み着いている。エメラルドゴキブリバチの幼虫にとって唯一の食料を汚染し、幼虫の生存を脅かすのだ。

 ドイツ、レーゲンスブルク大学動物学研究所の昆虫学者で、研究を率いたグドルン・ヘルツナー(Gudrun Herzner)氏は、「ワモンゴキブリをエサにする種は、食料を守り、食中毒を防ぐ必要があるのは明らかだった」と話す。「抗菌物質による防御機構を調べるにはぴったりの環境だ」。

◆強力な組み合わせ

 ヘルツナー氏らの研究の目的は、汚染されたエサの中で暮らすハチの幼虫が、どのように微生物から身を守っているかの解明だった。そこで、宿主に寄生した幼虫が分泌する液体を集めたという。

 分析の結果、分泌液に最も多く含まれる2つの化学物質、メレイン(mellein)とミクロモライド(micromolide)の組み合わせが、ワモンゴキブリから広く検出される細菌の抗菌物質として効果的だとわかった。

 どちらの化合物も、既に別の生物から発見されている。ただし、1つの生物からこの組み合わせが確認されたのは今回が初めてだ。「さまざまな細菌から幅広く防御してくれる、効果的なペアなのだろう」とヘルツナー氏は述べる。

 このように防御すれば、細菌による耐性の獲得も阻止できる。人間に抗生物質を組み合わせて処方するケースと同じだ。「抗菌性の分泌液でゴキブリを満たし、消毒している」と同氏は説明する。

◆物騒な世界

 アメリカ、イリノイ大学で昆虫学の教授を務めるジム・ホイットフィールド(Jim Whitfield)氏によれば、エメラルドゴキブリバチのような寄生は昆虫の世界では一般的だという。「ほぼすべての昆虫の幼虫が、何らかの寄生生物に攻撃される危険にさらされている。幼虫にとっては非常に物騒な世界だ」。なお、ホイットフィールド氏は今回の研究に参加していない。

 ただし、エメラルドゴキブリバチの幼虫の防御法はかなりユニークだとホイットフィールド氏は指摘する。「通常はメスの成虫(母親)が化合物を生成して子孫を守る。今回のケースでは、幼虫が自ら生成しているようだ」。

 発見された抗菌物質の組み合わせは将来的に、人間の食品安全管理や抗生物質療法にも応用できる可能性がある。事実、ミクロモライドは結核菌に対する化合物として有望視されているとヘルツナー氏は語る。

 しかも、より効果的で強力な化合物が既に存在する可能性もあると同氏は考えている。「進化によってさらに優れた組み合わせが生まれているかもしれない」。

 研究結果は「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌のオンライン版に1月7日付けで掲載されている。

Photograph courtesy Gudrun Herzner via PNAS

文=Jessica Stoller-Conrad

  • このエントリーをはてなブックマークに追加