タイタンの海に新探査計画

2012.10.23
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タイタンの大気中を降下するホイヘンス(想像図)。

Illustration by Mark Garlick, Photo Researchers
 土星の最大の衛星タイタンには、いくつもの魅力がある。まず分厚い大気層がある。太陽系で唯一、大気を持つ衛星だ。次に、地表面に安定した液体が存在する。そこには湖と海と砂丘からなる風景が広がっている。天文学者がタイタンに注目するのも不思議ではない。 タイタンには2005年に探査機ホイヘンスが着陸した。最近の発表によると、着陸の際に探査機の機体は地表ではね返り、横滑りし、ぐらついたという。このデータから、地球に似たタイタンの地面について新たな手がかりが得られた。

 一方、スペインの研究チームが、タイタンに小型船のような探査機を送り込み、北極近くにある広大な液体炭化水素の湖、リゲイア海を自力航行させるという計画を提案している。この探査機の設計は、ミシシッピ川の外輪船や、らせん型の推進装置を備えた旧ソ連の水陸両用車両などにヒントを得ている。

 この提案を行ったスペインの技術系企業セネルの宇宙航空工学者、イゴーネ・ウルダンピリェタ(Igone Urdampilleta)氏は、「着陸後も移動できるものにしようと考えた。そうすれば着陸地点を調べ、岸まで航行してそこを探索できる」と話す。

 TALISEと呼ばれるこの探査機はまだコンセプトの段階だが、実現すれば液体と土壌の両方のサンプルを採取して、有機物に満ちたタイタンの環境についてさらに知見を深める役に立つだろう。

◆「精油所」のようなタイタンの大気

 赤褐色の霧に覆われ、メタンの雨が降り、気温は摂氏マイナス180度近くという世界を想像してみてほしい。1年は地球の年にして29.5年だ。

 タイタンの専門家、アリゾナ大学のラルフ・ローレンツ氏は、「タイタンの大気を瓶詰めにして持ち帰り、地球で瓶を開けたら、精油所のような臭いがするかもしれない」と話す。「タイタンは非常に冷たいので、地球ならどろどろとべたつくものが、文字通り硬い岩になる」。

 同様に、地球の天然ガスの成分であるメタンとエタンも、タイタンでは液体で存在する。メタンとエタンはタイタンでは広く存在すると考えられている。ローレンツ氏によれば、科学者は、リゲイア海がほぼ液体エタンと液体メタンでできていることを「99%以上」確信しているという。リゲイア海は差し渡し数百キロあり、深さは10メートル以上になる。

 リゲイア海を調べれば、地球の気候のもととなっている水文学的循環(蒸発と降雨を伴う)と同種の現象を研究する機会が得られるだろうと、ローレンツ氏は指摘する。ローレンツ氏は、欧州宇宙機関(ESA)のホイヘンス探査機の開発に協力し、また、リゲイア海に浮かんで調査を行う別の探査機「TiME」(Titan Mare Explorer)の提案にも関係している。

 リゲイア海の組成が分かれば、宇宙生物学的にも意味がある。「ここは基本的に液体の環境だ。そこで自己複製する系を発展させられるだろうか。化学反応がどこまで複雑になれるか、われわれにはまるで分からない」とローレンツ氏は話す。

◆着陸後に跳ねたホイヘンス

 2005年1月にNASAの探査機カッシーニから投下されたホイヘンスの任務は、タイタンの分厚いもやの中を降下していく間に大気を調べることだった。ホイヘンスはその任務を果たした。そして、それ以上の情報を送ってきたのだ。

 ベルリンにあるドイツ航空宇宙センター(DLR)の惑星学者シュテファン・シュレーダー氏は、ホイヘンスは「赤道付近の湖床に着陸して、素晴らしい光景を送ってきた」と話す。「その光景は地球上に非常によく似ている。湖床、何かが流れた跡、岸辺の線のように見えるものが写っていた」。

 シュレーダー氏らがデータを新たに分析したところ、ホイヘンスが着陸した際には、地面に深さ12センチ近いくぼみを作り、そこから飛び出して横に30~40センチ動き、さらに何度か前後に揺れたことが明らかになった。

「そこは干上がった湖床だが、表面は湿っていたと思われる。液体は地下から来たものかもしれないし、かなり前に降った雨によるものかもしれないが、分からない」。

 シュレーダー氏らによる研究論文は、「Planetary and Space Science」誌に掲載されている。

Illustration by Mark Garlick, Photo Researchers

文=Luna Shyr

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