太陽の移動速度、想定より遅かった

2012.05.11
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オリオン座LL星という若い天体。オリオン星雲の中を、バウショックを形成して進んでいる様子が確認できる。

Image courtesy STScI/AURA/NASA
 NASAの観測衛星からもたらされた最新のデータによって、太陽が銀河系内を移動する速度は、これまで考えられていたより遅いということが分かった。 NASAの太陽圏観測衛星IBEX(Interstellar Boundary Explorer)は地球を巡る楕円軌道を回りながら、太陽系外縁にやって来る星間物質の速度を計測した。IBEXが観測している領域は、太陽から145億キロも離れている。

 こうして得られたデータをコンピューターモデルに投入したところ、太陽は時速約8万3700キロで動いていると算出された。これまで考えられていたより時速約1万1000キロも遅いことになる。

 今回の発見からは、太陽系を銀河系のほかの領域から隔てて保護する境界線の役割を果たしている太陽圏が、バウショック(弧状衝撃波)を持たないことが示された。バウショックは一般的に、高エネルギーの宇宙線が天体の磁気圏に進入するのを制御すると考えられている構成要素だ。

 太陽からは、あらゆる方向に向かって太陽風という荷電粒子の流れが吹き出し続け、その結果、太陽系の周りには繭のような太陽圏が形成される。

 星間ガスの雲をかき分けて進む太陽系に、海の上を進む船のイメージを重ねて、太陽圏の“バウ”(船首)は三日月型の“ショック”(衝撃波)を形成しているとする考え方が、これまで長く広まっていた。

 しかし今回IBEXのデータから算出された太陽の速度は従来の推定よりも遅かったため、太陽圏の周辺を流れる物質による圧力も、これまでの試算より25%小さいことになる。これではバウショックの形成に十分ではない。

 これまで「太陽系にまつわるあらゆるモデルや仮説はバウショックを前提としていた。ほとんど30年近くそう考えてきたので、(バウショックが)ないと分かったときには、それこそショックを受けた」と、今回の研究を率いたデイビッド・マコマス(David McComas)氏は言う。マコマス氏はテキサス州サンアントニオの非営利の独立研究機関、サウスウェスト研究所(SwRI)に所属している。

◆宇宙線からの防御シールドは生命の鍵?

 バウショックの欠如が重要なのは、それによって太陽圏はこれまでの想定よりも堅固だったと考えられるためだとマコマス氏は言う。

 太陽圏の外縁にかかる外来物質からの圧力が、これまで考えられていたよりも小さいのであれば、その力は弱められておらず、宇宙線をしっかりと跳ね返していることになる。

 太陽圏が宇宙線の進入を防いでいる仕組みが正確に把握できれば、ほかの惑星に生命が存在する可能性を試算する一助ともなるだろう。

 マコマス氏によれば、太陽圏に入り込んだ宇宙線は地球の気候に影響を与えている可能性があると考える研究者もいるという。宇宙線に含まれる高エネルギーの粒子は大気中の物質をイオン化させる(電荷を持たせる)可能性があり、その結果、雲の形成や稲妻の発生頻度が高まるというのだ。

 別の専門家らは、宇宙線の粒子は地球の歴史上に見られる急激な進化や絶滅にも関係している可能性があると考えている。宇宙線は高エネルギーの放射線であり、DNA配列に影響を及ぼしうるためだ。

 宇宙線が地球にどのような影響を及ぼしてきたかを巡る科学的説明は、今のところかなり意見が分かれると、ウェスリアン大学の天文学者セス・レッドフィールド(Seth Redfield)氏は言う。レッドフィールド氏は今回のIBEXの研究には参加していない。

 それでも推定しうる宇宙線の影響を考えに入れると、「惑星への宇宙線の進入が重要な意味を持ち、惑星の大気環境の発展や、その地表での生物学的プロセスにすら大きな影響を与えているとするシナリオか、(少なくとも)そのような時期があったことは明白だと私は思う」とレッドフィールド氏は言う。

 その場合、ほかの惑星に生命が存在する可能性を評価する際には、液体の水が存在するかどうかに加えて、その惑星では宇宙線からの防御シールドが十分な強度を持っているかどうかを検討対象に加える必要があるだろうと、IBEXの研究を率いるマコマス氏は言う。

「宇宙線からの防御についての疑問が、私たちの知る形の生命に関するいくつかのきわめて重要な疑問の核心に位置していることは疑いの余地がない」と同氏は話している。

 太陽の速度に関する今回の研究は、5月10日付けのオンライン版「Science」誌に掲載されている。

Image courtesy STScI/AURA/NASA

文=Andrew Fazekas

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