世界最深、マリアナ海溝の形成プロセス

2012.04.05
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世界最深のマリアナ海溝(想像図)。

Video still courtesy of NOAA
 映画監督のジェームズ・キャメロン氏は2012年3月、1人乗り潜水艇「DEEPSEA CHALLENGER(ディープシー・チャレンジャー)号」で水深約1万1000メートルに潜航。マリアナ海溝最深部「チャレンジャー海淵」での着底に成功した。 ハリウッドで数々のヒット作を生み出してきたキャメロン氏には、ナショナル ジオグラフィック協会付き探検家の肩書きもある。チャレンジャー海淵には1960年にアメリカ海軍の2人乗り潜水艇「トリエステ号」が到達しているが、今回のように周囲を観察する時間的余裕はなかった。

 キャメロン・チームはマリアナ海溝の生態系調査を進める意向だが、世界最深の溝が海底に刻まれた過程については既に大部分が知られている。

◆太古の溶岩活動で形成

 海溝は単なる深くて狭い溝ではなく「沈み込み帯」である。

 厚さ100キロほどの巨大な岩盤「地殻プレート」2つが出会い、片方がもう一方の下へ沈み込む場所だ。マリアナ海溝の場合は、太平洋プレートがフィリピン海プレートの下へ沈んでいる。最初は浅く滑り込むだけだが、最終的には大きく折れ曲がり、地球内部へほぼ垂直に落ちていくという。

 アメリカ、テキサス大学ダラス校の地球物理学者ロバート・スターン氏は、マリアナ海溝が非常に深い理由の1つとして、西太平洋が地球最古クラス(1億8000万年前)の海洋底の形成場所である点を指摘する。

 海洋底は、大洋の真ん中にある中央海嶺から噴き出した溶岩で形成される。最初は比較的温かく浮揚性があり、マントル上の高い位置に浮いている。しかし時間が経って海嶺から離れると、ゆっくり冷却されて密度が高くなり、マリアナ海溝のように低位に落ち着くようになる。

◆マリアナ海溝は巨大地震の原因になる?

 全長2550キロ、世界最深のマリアナ海溝の形成過程には、他にも2つの要因が絡んでいる。

 まず、主要な陸塊から遠く離れており、近くに河口がない。「河川が運んでくる土砂が堆積しない」とアメリカ、オレゴン州立大学(OSU)アクティブテクトニクス海底マッピング研究所(Active Tectonics and Seafloor Mapping Laboratory)の所長クリス・ゴールドフィンガー氏は指摘する。

 また、海溝付近では太平洋プレートが舌状に突き出しており、他の沈み込み帯よりプレートが急角度で沈み込めるようになっている。

「安定性の高いマリアナ海溝の沈み込み帯は、巨大地震の発生源にはならないと考えられていた」とアメリカ、ノースウェスタン大学の地球物理学者エミール・オカル氏は話す。海溝付近の高密度な太平洋プレートは、上側のフィリピン海プレートを強く圧迫しないため、地震につながる摩擦が生じないからだ。

 しかし、オカル氏によると、2004年のスマトラ島沖地震と2011年の東北地方太平洋沖地震はこの定説を覆したという。どちらも発生源はマリアナと類似の海溝で、巨大地震は想定外だった。

「マグニチュード8.5クラスの地震が起きる可能性も捨てきれない。実際、1826年と1872年には同地域で津波を伴う地震が発生している」と同氏は言う。

◆岩石採取や新種生物発見に期待

 キャメロン氏の記録的な潜航は大きな業績だが、最深の沈み込み帯で実際に何が起きているかは確認しようもない。地球の表面下700キロ付近まで潜らなければ、活動全体を把握できないからだ。

 テキサス大学のスターン氏は、キャメロン氏のヒット作『タイタニック』を引き合いに出して、全体像を「氷山」に例える。「わずか11キロの潜航では、“一角”にすら触れていない。全ては到達限界の下、地殻やマントルに隠されている」。

 とはいえ、調査を続行すれば、海底最深部での岩石採取や新種生物発見も期待できるだろう。OSUのゴールドフィンガー氏は、「極限環境の生物には、人の心を魅了する何かがある。キャメロン氏の冒険的行動もそれが大きく影響しているはずだ」と話している。

Video still courtesy of NOAA

文=Richard A. Lovett

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