ネズミの生息域、バイキングと共に拡大

2012.03.21
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ドイツ、ベルリン動物園のハツカネズミ(資料写真)。

Photograph by Kalle Pahajoki, Alamy
 かつてヨーロッパ各地を襲ったバイキングは、未知の侵略者を同伴していた可能性が明らかになった。新たなDNA分析の結果は、ノルウェーのネズミを名指ししている。 研究チームのリーダーでスウェーデンにあるウプサラ大学の個体群生物学者エレノア・ジョーンズ(Eleanor Jones)氏は、「ハツカネズミの進化を調査した以前の研究は、現在のノルウェーとイギリス北部に住むハツカネズミだけに固有のDNAパターンを指摘している」と話す。ノルウェーはバイキングの故郷であり、イギリス北部はバイキングが侵略して植民地にした地域である。

 ジョーンズ氏らは、「海で隔てられている2つの個体群は血のつながりがあり、バイキングがイギリス北部に持ち込んだ」と想定した。

 研究チームは、バイキングの植民地として知られているさまざまな地域から、生きたハツカネズミや発掘された骨を集めてDNAを分析。同一のパターンの発見に成功し、バイキング説は確実だと結論付けている。

◆密接なつながり

 バイキングは、8世紀から10世紀中頃にかけて、スコットランド、アイルランド、アイスランド、フェロー諸島、ニューファンドランド島、グリーンランドなど、さまざまな地域に植民した。

「彼らは大型の船に乗って新たな土地にやって来た。ハツカネズミは船内の穀物や干し草の貯蔵庫に潜り込んで“密航”したのだろう」とジョーンズ氏は語る。

 ハツカネズミは人間との共生能力に優れ、おそらくは一緒に暮らすように共進化してきたと考えられる。両者が共に生活していた最古の記録は、中東地域の「肥沃な三日月地帯」で確認されており、紀元前8000~6000年にまでさかのぼる。

 ジョーンズ氏は、「ハツカネズミの遺伝子の歴史をたどることが可能になった。人の移動に伴う遺伝子の伝播とも密接につながっている」と説明する。

◆人とネズミの研究

 ジョーンズ氏の研究チームは、アイスランド9カ所、グリーンランド1カ所、ニューファンドランド島のランス・オ・メドウにあるバイキング遺跡の近郊4カ所で、野生のハツカネズミからDNAサンプルを採取。そして、アイスランド4カ所、グリーンランド2カ所の遺跡で発掘されたハツカネズミの骨と比較した。

 研究チームはミトコンドリアDNA(mtDNA)の特定の部分に着目。mtDNAは母親から子どもに受け継がれる特性を持っている。さまざまな地域から集めたハツカネズミを比較した結果、血縁関係が判明した。

 このデータをつなぎ合わせて作成した系統樹によって、過去数千年の間にハツカネズミがヨーロッパ全土にどのように広がっていったのかを理解できる。「その広がり方は、バイキングが版図を拡大する経路と一致した」とジョーンズ氏は話す。「ハツカネズミの伝播は人間のそれと表裏一体なのだ」。

 バイキングがこの“無賃乗客”に気付いていたのかどうかは不明だ。「ただし、猫を乗せていたという記録は残っている」とジョーンズ氏は述べる。

「アイスランドやグリーンランドには、ほかに迷惑な小動物はいなかった。ハツカネズミ対策として連れて行ったことは間違いない。 たくましいハツカネズミは、新しいバイキングの居住地で自分たちの居場所を楽々と見つけていただろう」。

◆説得力のあるバイキングとネズミの研究

 ブリュッセルにあるベルギー王立自然史博物館に所属するファビエンヌ・ピジエル(Fabienne Pigiere)氏は、今回の研究を受けて次のようにコメントする。

「非常に魅力的な研究だ。昔のハツカネズミのDNA分析で、人間がどのように新しい土地に定住していったかがよくわかる。人間の定住の歴史を研究する上で、新たな視点を切り開いたといえる。例えばニューファンドランド島では、バイキング時代にハツカネズミの存在を示す証拠はない。つまり、バイキングの居住はごく短期間だったことがうかがえる」。

 研究チームのジョーンズ氏は、「人間がいかに新しい環境を変えてしまうのかをあらためて思い起こさせる」とも話す。「現在でも、移動する私たちにさまざまな生物が一緒についてくる。移動先の環境は影響を免れ得ない。連れてきた生物にとってもね」。

 今回の研究成果は、オンラインジャーナル「BMC Evolutionary Biology」に3月19日付けで掲載されている。

Photograph by Kalle Pahajoki, Alamy

文=Christine Dell'Amore

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