巨大イカ、目玉は極度の遠視

2012.03.15
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死んだダイオウホウズキイカの眼にライトを当てる博物館の研究員(2008年撮影)。右下は角膜、バスケットボールほどの眼球からすると比較的小さい。

Photographs by Ross Setford, NZPA/AP; (inset) Marty Melville, Getty Images
 巨大イカとして知られるダイオウホウズキイカやダイオウイカの目玉は、バスケットボールほどの大きさがある。他の大型動物の2~3倍というサイズだが、視界はあまり良くないことが判明した。 しかし巨大イカの眼は、小説『白鯨』でエイハブ船長を襲ったマッコウクジラにも対抗できるほどの“特殊な能力”を備えているという。今回の研究の発端は、極めて珍しいイカの捕獲だった。

 2007年、南極のロス海で操業していた漁師がダイオウホウズキイカ(Mesonychoteuthis hamiltoni)を釣り上げた。体長は8メートル、無傷で捕獲されたイカとしては最大である。その後すぐに冷凍され、ニュージーランド国立博物館で研究者チームが解凍した。

 体重495キロのイカを解剖したところ、直径27センチの巨大な目玉が現れ、研究者たちは驚きの声を上げた。同じく巨大イカとして知られるダイオウイカに匹敵するサイズだった。

 研究責任者でスウェーデン、ルンド大学の生物学者ダン・エリック・ニルソン氏は、「圧倒的に大きく、他の動物とは比べものにならない」と語る。

◆目玉が巨大な理由は?

 ニルソン氏は、ダイオウホウズキイカとダイオウイカ(ダイオウイカの方がやや小型)の目玉が桁外れの大きさに発達した理由や用途について、「ダイオウホウズキイカの生息場所である水深1000メートル付近は暗闇に覆われており、より多くの光を集めるために巨大化したのではないか」という仮説を立てた。

 しかし、研究チームが数学的モデルで解析したところ、獲物など水中の物体を識別する能力は、水の光学的性質によって限定されることがわかった。眼が巨大でも視覚的に有利にはならないようだ。

 データによると、オレンジ以上の大きさに目玉が発達しても、深海での視界には役立たないという。この結論は、深海に生息する他の動物の眼からも裏付けられるだろう。

「このイカと同程度のサイズの生物もいるが、目玉はそれほど大きくない。“深海の暗闇でよく見えるため”という推論は的外れだった」とニルソン氏は述べる。

◆巨大イカの集光能力

「意味もなく大きくなるとは考えられない。ここまで発達させて維持するのは、身体にとっても負担だろう。何か理由があるはずだ」と同氏は諦めなかった。

 研究チームのモデルでさらに分析すると、ダイオウホウズキイカやダイオウイカの特大サイズの瞳孔と網膜は、近くを見る能力には乏しい代わりに、極度の遠視と判明した。イカを捕食するマッコウクジラなどの巨大な物体を遠くから識別できるように進化していたのだ。

 ただし、目玉や対象の物体がどれほど大きくても、やはり暗闇での認識は容易ではない。

 集光能力に優れたイカは、フットボール競技場の長さほど離れたかすかな光を検出できることもわかった。

 マッコウクジラが移動するとき、微小な発光生物が押しのけられて、クジラの後ろにかすかな光跡ができる。イカにとっては天然の警告サインだ。

 ニルソン氏は現在、同じモデルを使って、深海の他の動物に関しても眼の働きや生態を解明しようと考えている。

「現場に行くのは難しいので、モデリングは一つの研究手段になる。このモデルを使えば、他の動物の視覚も理解できるだろう。観察がほとんど不可能な領域の生態系を研究する手法として、これから役立ちそうだ」。

 今回の研究は「Current Biology」誌に3月15日付けで発表された。

Photograph by Ross Setford, NZPA/AP

文=Brian Handwerk

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