ワニの噛む力は地球で最強、実測で証明

2012.03.15
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現存するワニの全種の噛む力を実測したグレゴリー・エリクソン氏。写真ではアメリカアリゲーターを測定中。

Photograph courtesy Gregory M. Erickson
 最新の研究によると、ワニの仲間の噛む力は、現存する生物で実測された数値としては地球上で最強だという。最大級の恐竜であるティラノサウルス・レックス(T・レックス)にも匹敵した可能性がある。 フロリダ州立大学の古生物学者グレゴリー・M・エリクソン(Gregory M. Erickson)氏の率いるチームは、現存するワニ目の全23種を対象に、先例のない、噛む力のテストを行った。“優勝者”のイリエワニが顎を閉じる力は、1平方センチ当たり約260キログラムを計測した。

 参考までに、私たちがステーキを噛む力は1平方センチ当たり約10~14キロ。ハイエナ、ライオン、トラなどで1平方センチ当たり約70キロといったところだ。

 2008年のコンピュータモデルによる試算では、体長約6.5メートルのホホジロザメの噛む力は1平方センチ当たり280キログラム近いとされているが、この数値は実測されたものではない。

 これに対してエリクソン氏らのチームは、体長5メートル級のイリエワニの複数の個体を対象に、噛む力を実際に測定した。測定の対象はこのほかにもナイルワニなどワニ目の全種におよび、中にはこの種の調査が初めて行われた種もあった。

 チームはフロリダ州のセントオーガスティンワニ園で膨大な時間をかけて調査を行い、対象のワニたちと格闘してどうにか力変換機を噛ませた。この測定装置は「非常に高額で非常に頑丈な、防水の体重計を革で保護したもの」だという。 エリクソン氏によると、「1匹のワニを計測するのに、10人以上の人手がかかることもよくある」のだそうだ。

 どの種のワニでも驚くべき数値がはじき出されたことから、噛む力の強さはワニの仲間の本質的な特徴であることが示されているとエリクソン氏は言う。

「だからこそワニの仲間はこれほど繁栄できたのだと考えている。噛む力や圧力を生む優れた(体の)構造を手に入れたので、8500万年もの間、水辺で(捕食者という)生態的地位を占めている。他のどの動物も、ワニをその地位から引きずり下ろせるような進化をしてこなかった」とエリクソン氏は言う。

◆噛む力は進化の始めから

 今回の調査では、ワニの種ごとの噛む力の差異は、おおむねその体の大きさに比例するという結果が得られた。これは驚くべきことだとエリクソン氏は考えている。というのも、多くの動物では、この差は顎の形や歯の配列の相違と関係している。ところが今回の調査では、ワニの噛む力には、こうした特徴はあまり大きく影響しないことが分かった。

 このことが示しているのは、ワニは進化の黎明期から噛む力が強かったということだとエリクソン氏は言う。吻(ふん)や歯の形状の差異は時代が下ってから生じたもので、魚やヘビや鳥、哺乳類、時には昆虫などといった獲物に合わせて、より強く噛めるように洗練されたと考えられる。

 今回の研究には参加していないシカゴ大学の古生物学者ローラ・ポロ(Laura Porro)氏はこう評価する。「これまでは吻の形や歯の形、食生活の違いが、ワニの生体力学に影響しているのだろうと言われてきた。でもこうしたデータは誰にも集められなかった。これは比類のないことだ」。

◆古代のワニはさらに強力?

 今回の調査結果は現存するワニに光を当てたばかりか、進化の系統図の上でワニのルーツに当たる絶滅した生物種を知る手がかりになる可能性もあるとポロ氏は言う。ポロ氏は現生のワニの研究と並んで、絶滅した爬虫類の生体力学のモデル化にも取り組んでいる。

「現存する種を対象としたこうした研究は、私たちがモデルを検証するのにも役に立つ。私の考えでは、このモデルは間違いなく、化石のワニにも適用できる。どんなに巨大なものでも、現存するワニに比較的似たものならば」同じモデルが当てはまるだろうとポロ氏は言う。

 エリクソン氏らのチームもすでにそうした試算を行っている。その結果、実に獰猛な古代のワニの姿が浮かび上がった。

「私たちは体長5メートル級のイリエワニを複数調査している。その結果を元に体長6メートル(のワニの噛む力)を試算すると、1平方センチ当たり約540キログラムという数値が得られる。これはT・レックスの噛む力として試算されている数値の下限と同じだ」とエリクソン氏は言う。

 さらにエリクソン氏は、絶滅したデイノスクス(学名:Deinosuchus)の噛む力も試算してみた。ラテン語で「恐ろしいワニ」を意味するこのワニは体長10メートルを超え、噛む力は1平方センチ当たり約1600キロと推定された。この数値は、T・レックスの噛む力を同約900キロとした最新の試算結果を大きく上回るものだ。

 シカゴ大学のポロ氏の指摘によると、T・レックスの筋肉は現存しないので、噛む力は体の大きさと頭蓋骨の幅、吻が短いことに基づいて試算されたものだという。

 T・レックスの骨格を見る限り、どんなワニよりも噛む力は強そうに思えるとポロ氏は言うものの、解剖で確認できるワニの頭部には大量の筋肉が詰まっていることも指摘する。「もしかすると、ワニのほうが筋肉が多いからという問題かもしれない」。

 噛む力において、ワニとティラノサウルスのどちらが地球史上最強の称号にふさわしいか、確かなことは分からないままだろう(両者を圧倒して、巨大な古代ザメが頂点に立つ可能性もある)。

 現代のワニは古代のワニにきわめて近いので、古代のワニの研究者にとってはある意味で研究が容易だとポロ氏は言う。しかし「T・レックスにとてもよく似た動物は、今日存在しない」。

 今回の研究は、オンラインジャーナル「PLoS One」誌で2012年3月14日に公開された。

Photograph courtesy Gregory M. Erickson

文=Brian Handwerk

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