米先住民の頭蓋骨萎縮、タールが原因か

2011.10.06
アメリカ先住民のチュマッシュ族が作るカヌーは、板と板の隙間をタールでふさいでいた(想像図)。

Illustration by W. Langdon Kihn, National Geographic
 現在のカリフォルニア州付近で暮らしていたアメリカ先住民「チュマッシュ族」について、健康の悪化が進んでいたという研究結果が公表された。頭蓋骨萎縮などの原因として考えられるのが、日常的に使用されていたタールだという。 タールには天然の化学物質「多環芳香族炭化水素(PAH)」が含まれている。チュマッシュ族の頭蓋骨が約7500年間に萎縮した要因として、PAHが考えられるという。集団の頭蓋骨萎縮は発育不全の表れであり、生物学的に見ると全般的な健康状態悪化を示している。

 チュマッシュ族が住んでいたのは、ロサンゼルスからサンディエゴ沖のチャンネル諸島。各集落には最大2万の人口が密集し、貝殻で作ったビーズが貨幣として通用していた。狩猟採集生活を営んでおり、諸島各所で豊富に産出する天然のタールを集めて、カヌー建造用の接着剤、骨折用のギプス、防水加工剤、チューインガムなど、日常生活で広く利用していた。

 調査に参加したカリフォルニア大学バークレー校の人類学者サブリナ・ショルツ(Sabrina Sholts)氏は、タールに含まれるPAHの毒性はよく知られているにも関わらず、チュマッシュ族が健康を害していた可能性は誰も指摘しなかったと語る。

「チュマッシュ族の健康状態が数千年をかけて徐々に悪化したことを考えると、原因は現代のタバコや大気汚染物質などと同じように、彼らが日常的に接していた発癌(がん)性物質にあったはずだ」。

 ショルツ氏の見解について、環境毒性学の専門家であるテキサス工科大学のロナルド・ケンドール氏は、更なる検証は必要だが妥当な説だと評価する。

◆タールに含まれる毒性

 PAHは、化石燃料の燃焼に伴う煙やタバコの煙に含まれるほか、道路舗装や屋根ふきの材料にも使用されるなど、現代生活にもなじみのある化学物質だ。

 過去の研究では、PAHが呼吸や経口摂取、皮膚接触で人体へ容易に取り込まれ、場合によっては臓器や組織、胎児に影響を及ぼすケースが報告されている。癌、ホルモン異常、内臓損傷などの重大な疾患にPAHが関与しているとも言われている。

 調査チームは今回、さまざまな時代に属するチュマッシュ族の男性と女性の遺骨269体を分析。時代が下るにつれて頭蓋骨が小さくなっている傾向に気が付いた。

 タールのPAHが頭蓋骨萎縮の原因かどうかを探るため、かつてチュマッシュ族が暮らしていた地域でタールを採取し分析した結果、毒性の強いPAHが含まれていると判明した。

 さらに、過去の研究を基にして、PAHが人体に取り込まれる経路を詳しく調査。日常的にタールを使用していたチュマッシュ族の人々は、経口摂取や吸入などで体内に取り込んでいた可能性が高いという結論に達した。

 例えば、飲料水を貯めるバスケットの防水加工に、タールを利用していたことが分かっている。また、粘度を下げるためにタールを熱する際に、気化した成分を吸い込んでしまうケースもあっただろう。しかも、時代と共にタールの使用量が増加していたことが遺物からうかがえるという。

 ショルツ氏は、年代の古い人骨に含まれる炭化水素を分析する方法はまだ確立されていないと強調する。PAHが骨格変化に影響するという説には推測も含まれており、PAH以外の要因も多数考えられるという。

◆人体に対するPAHの影響は未解明

 歴史的な事実以外にも、われわれの生活に有益な発見をもたらす可能性がある。ショルツ氏は長期間PAHにさらされていた遺骨を詳しく調査すれば、毒性について新たな事実が分かるかもしれないと言う。

「最近ではメキシコ湾の原油流出事故で大量のタールが海に放出された。しかし、PAHが人体に及ぼす影響は完全には解明されていない。考古学の研究成果が現代の問題を解決するヒントになれば、これほど素晴らしいことはない」。

 この研究結果は、「Environmental Health Perspectives」誌で5月19日に掲載されている。

Illustration by W. Langdon Kihn, National Geographic

文=Christine Dell'Amore