サメのスクアラミン、人間にも効果

2011.09.20
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カナダ沖の太平洋を行き来するサメ。

Photograph by Jurgen Freund, Getty Images
 サメが強いのはその外面だけではないようだ。新しい研究から、サメの体内に存在する物質に、即座にウイルスの増殖を食い止める性質があることがわかった。 ツノザメ目のサメの組織から見つかったコレステロールに類似した物質が、デング出血熱や肝炎などの難治性の人間の疾患を起こす複数のウイルスと戦う性質を持つことが、新たな研究で判明した。

 この化合物はスクアラミン(squalamine)と呼ばれ、癌や眼疾患などの病気に関しては既に人間を対象とした臨床試験も始まっている。数百人の被験者がこの物質を投与されているが、今のところ大きな副作用は出ていないという。

 今回の研究では、スクアラミンがウイルスのライフサイクルを阻害し、組織培養、生体内の両方においてその増殖を食い止めることが明らかになった。

 細菌感染の治療薬は数多く存在するが、ウイルスに対して効果を発揮する医薬品は非常に少ない。既存の抗ウイルス剤の適用範囲は非常に限定的で、それぞれが1種類のウイルス株にしか効力を発揮しない。しかしウイルス株は頻繁に突然変異を起こすため、その薬に対する耐性を持つようになってしまう。

「この研究はウイルス性疾患に対する全く新しいアプローチだ」と、今回の研究を主導した、ジョージタウン大学付属病院移植センターで外科免疫学の責任者を務めるマイケル・ザスロフ氏は語る。「(現在)慢性感染症とされている病気についても、治療の可能性が出てきた」。

◆サメに含まれる成分から抗ウイルス剤を発見

 ザスロフ氏は1993年、サメから抗細菌物質を探す過程の中でスクアラミンを発見した。サメはあらゆるウイルスを含め、一部の感染症にかからないことで知られる。 ザスロフ氏はさらに、スクアラミンが血管の成長を阻害することも発見した。これはすなわち、スクアラミンの分子に癌細胞の増殖を阻止する効果が期待できるということだ。

 その後の人間を対象とした研究で、スクアラミンがウイルスの機能をマヒさせるという「大発見」に至ったとザスロフ氏は振り返る。

 スクアラミンの分子は正の電荷を持っている。そのため細胞内に入るとすぐ、負の電荷を帯びた細胞膜の内側に「面ファスナーのように」に密着するとザスロフ氏は説明する。その際、スクアラミンは細胞内膜に付着していた正の電荷を持つタンパク質を「追放」する。ザスロフ氏によれば、これにより細胞自体が害をこうむることはないという。

 一方、ウイルスは細胞に侵入する際、正の電荷を持つタンパク質が細胞膜に存在することを前提としている。こうしたタンパク質がないとウイルスは増殖できない。

「科学者に知られている化合物の中で、スクアラミンのような性質を持つ物質はほかにない。実に驚くべき存在だ」とザスロフ氏は語る。

◆人間が感染するウイルスにも有効なスクアラミン

 今回の研究では、人間の血管細胞に潜むデング出血熱ウイルスや、人間の肝臓細胞に侵入するB型およびD型肝炎ウイルスへの感染をスクアラミンが阻止したと報告している。

 ザスロフ氏が率いる研究チームはさらに実験動物を用いた研究で、黄熱病、東部ウマ脳炎ウイルス、サイトメガロウイルスについても、スクアラミンによって増殖を阻止できることを発見した。一部のケースでは、被験動物を回復させることもできたという。

 現状では、スクアラミン化合物はその侵入を許す「化学物質の門」を備えた細胞にしか入り込むことはできない。こうした細胞としては、通常の血管や毛細血管、肝臓などを構成するものが挙げられる。しかし、将来的には、スクアラミンをベースにした薬剤により、他の種類の細胞に感染する幅広いタイプのウイルスと戦わせることも可能だとザスロフ氏は語る。

 今回の研究結果について、マサチューセッツ工科大学(MIT)のリンカーン研究所および同大学比較医学部門に所属するシニアスタッフ科学者であるトッド・ライダー(Todd Rider)氏は、「有望に思える」と評している。

「今のところ、研究チームは6種のウイルスについてスクアラミンの効力を確認しているようだが、対象となる細胞の種類によっては、抗ウイルス剤としての効力を発揮するのに必要な用量におおむね相当するとみられる投与量において、ある程度の毒性や副作用が現れることもわかっている」とライダー氏は電子メールで回答を寄せた。

「今後、スクアラミンが効力を発揮する、あるいはしないウイルスにはどんなものがあるのか、また任意の細胞組織において、毒性を及ぼすことなく抗ウイルス剤としての効力を発揮できるのかどうか、注意深く見守りたい」とライダー氏は記している。

 しかし研究を主導したザスロフ氏は、あらゆる物質には何らかの毒性があるとした上で、スクアラミンの人間に対する安全性は臨床試験により確認されるだろうとの見解だ。

 これまでに確認されている安全性からして、人間を対象とした抗ウイルス剤としてのスクアラミンの臨床試験は1年以内に始まるとザスロフ氏は見ている。

 この研究成果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌のWebサイトで9月19日に発表された。

Photograph by Jurgen Freund, Getty Images

文=Christine Dell'Amore

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