娘の体内で“父親”が受精させる昆虫

2011.08.18
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ワタフキカイガラムシの母と子。メスの体の後半部はほとんどが卵嚢で、分泌されたロウ物質で覆われている。

Photograph courtesy Peter Hollinger
 害虫の一種ワタフキカイガラムシのメスは、父親の精子から発生した“クローン”を体内で成長させる。いずれオスが不要になる日が来るのかもしれない。 ワタフキカイガラムシは体長5ミリほどに成長する農業害虫だが、最近、新たな現象が確認された。受精卵からメスの個体が発生するとき、余分な精子が“娘”の体内で組織に成長するというのだ。

 この寄生的な組織は遺伝的にはメスの父親と同一であり、体内に生息して卵子を受精させる。つまり、メスは雌雄同体となる。メスが産む子にとって、父親は遺伝的には祖父でもある。

 研究責任者でイギリス、オックスフォード大学の進化理論学者アンディ・ガードナー氏は、「オスとの交尾がなくなったわけではないが、寄生的なオスは伝染病のように個体群で広がっていた」と話す。

「この傾向が始まると一気に広まり、すべてのメスがこの組織を持つようになる。通常のオスの存在価値がなくなってしまう」。

 仮にメスが寄生的なオスを子に伝え始めれば、精子を生産してメスを受精させるオスを産む必要はなくなる可能性があるという。

 ガードナー氏とアメリカ、マサチューセッツ大学のローラ・ロス氏は、体内に生息する伝染性の組織にメスがどのように反応するかを予測する個体群モデルを作成した。結果によると、メスはこの組織の伝染から恩恵を受けるようになり、オスの必要性は失われるという。

◆まだ謎の多い昆虫の性

「オスが衰退する正確な時期はわからないが、長い目で見れば、無性状態はワタフキカイガラムシにとって不利になると考えられる」とガードナー氏は述べる。 「例えば、動物の種のうち30%は無性生殖を行う。しかし、大多数は比較的最近の進化であり、急速に絶滅すると思われる。

 自分自身で生殖すれば、通常の交尾がもたらす適応力のある変化が生まれない。通常の交尾には明らかな利点があり、子孫が遺伝子の新しい組み合わせを持つことでその種全体が生き延びやすくなる」。

 ところで、雌雄同体の昆虫はカイガラムシの仲間3種しか確認されておらず、昆虫で少ない理由は不明だという。一般に昆虫は性的に変化しやすく、自然界ではさまざまな形態の生殖行動が見られる。中には無性卵からオスが発生する種もある。

「ややこしいのだが、ワタフキカイガラムシは厳密には雌雄同体ではない。1つの体の中に2つの個体が存在するのだ。そこが興味深く、今後も研究が必要だ」とガードナー氏は語っている。

 今回の研究は「The American Naturalist」誌8月号に掲載されている。

Photograph courtesy Peter Hollinger

文=Christine Dell'Amore

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