地球を取り巻く反物質帯を発見

2011.08.10
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
宇宙線がバンアレン帯(茶色)に衝突するイメージ図。白い破線の矢印は地球の磁場。

Illustration from Corbis
 新たな観測データから、地球の上空に閉じ込められた複数の反陽子の証拠が確認された。地球は薄い反物質帯に取り囲まれているという。 反物質粒子は、通常の物質粒子に対して鏡に映したような性質をもつ。例えば、反陽子は原子の基本的な構成要素の1つである陽子とほぼ同じ性質だが、電荷だけがマイナスである。

 宇宙線(太陽や太陽系外から届く高エネルギーの粒子)が原子に衝突すると、分裂して“エキゾチック”な粒子が大量に発生する。この中にわずかな割合で反陽子が含まれると予測されている。

 問題は、反物質が物質に衝突すると、エネルギーを発して両方とも消滅してしまうことだ。宇宙には物質の方が多いため、新たに発生した反物質はすぐに消えてしまう。

 だが最近、ヨーロッパの宇宙放射観測衛星PAMELA(Payload for Antimatter Matter Exploration and Light-nuclei Astrophysics)によって、バンアレン帯で反陽子が複数発見された。バンアレン帯は地球を取り巻く荷電粒子のドーナツ型の輪で、外側の輪の下にもう1つ輪がある。

 研究チームのメンバーでイタリアにあるバーリ大学の天体物理学者アレッサンドロ・ブルーノ(Alessandro Bruno)氏は、「宇宙線と地球大気の相互作用によって発生した反物質粒子が地球の磁場に捕らえられると予測されており、今回の発見で裏付けられた」と語る。

◆飛び出した粒子から反陽子が生まれた?

 PAMELAは、宇宙線や宇宙線が地球大気の分子と衝突して発生する粒子を調査するため2006年に打ち上げられた。約2年半の間に、搭載したセンサーで地球を周回する反陽子の証拠を28回検出した。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の宇宙科学教授バシリス・アンゲロプロス氏は、「わずかな数に聞こえるかもしれないが、宇宙空間で予測される反陽子の平均密度より3桁ほど大きい」とコメントしている。同氏は今回の研究には関与していない。

 バーリ大学のブルーノ氏は、「PAMELAが検出した反陽子の大部分は、間接的な発生だと考えられる」と話す。宇宙線によって地球の上空数十キロで原子が分裂するとき、「反中性子」という粒子も発生する。「この反中性子の一部が大気から飛び出し、より上空で崩壊して反陽子になる」とブルーノ氏は説明する。

 反陽子の証拠はバンアレン帯の「南大西洋異常帯」で発見された。高度1000キロのバンアレン帯の内側の輪が、地表に向かって600~700キロ下がっている領域だ。

 反陽子はバンアレン帯の他の場所にも存在する可能性があるが、高度が高すぎるためPAMELAでは検出できないという。

◆宇宙ステーションの装置で反物質科学を発展

 これまでにも、地球上で反物質を人工的に生成し、瞬間的に捕捉したことはあった。しかし、宇宙空間の反陽子は自然な状態を研究する貴重な機会が得られる。「磁気圏はこのような基本原理の研究にとって純粋な“実験室”になる。地上の実験室では壁や装置が干渉して消失してしまうが、その心配もない」とアンゲロプロス氏は言う。

 PAMELAの反粒子観測を継続すれば、銀河での宇宙線の生成と伝播や、発生した粒子が地球大気を通過する経路を解明する大きな手掛かりが得られるだろう。

 PAMELAの成果は、アメリカのエネルギー省が運用する「アルファ磁気分光器」によって裏付けられる可能性もある。今夏、国際宇宙ステーション(ISS)へ運ばれた、費用15億ドルの最新の宇宙線検出装置だ。

 NASAでは次世代宇宙船の燃料として反物質を収集、活用するアイデアも検討されているが、実現はまだ先の話になるだろう。

 今回の発見は「Astrophysical Journal Letters」誌オンライン版で7月27日に発表された。

Illustration from Corbis

文=Ker Than

  • このエントリーをはてなブックマークに追加