メキシコ湾で増加する魚の生殖器異常

2011.05.31
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アトランティック・クローカーはメキシコ湾でよく見られる魚だ。

Photograph courtesy NOAA
 メキシコ湾の酸欠海域「デッドゾーン」で、魚の生殖器異常が多発していることが明らかになった。 デッドゾーンの原因は、ミシシッピ川から流れ込む農業排水などが引き起こす藻や微生物の異常繁殖だ。海水中の酸素が大量に消費されるため、他の海洋生物が死滅し、広範囲に及ぶ「死の海」となる。

 2006年から2007年にかけて、メキシコ湾北部のデッドゾーンでニベ科のアトランティック・クローカーを捕獲調査した結果、約4分の1のメスから、卵巣の代わりにいびつな精巣のような器官が見つかった。生殖器の異常が生じるまでに、酸欠海域でどれくらい暮らしていたかはわかっていない。しかし、実験によると10週間あれば十分なようだ。

 メキシコ湾のデッドゾーンは毎年5月から9月の間に出現しており、1980年代と比較して2倍以上になっている。

 実験室でクローカーを分析したところ、オス化したメスの脳と卵巣で、重要な化学物質「アロマターゼ」の減少が確認された。アロマターゼは、卵巣の正常な発育に欠かせない女性ホルモン「エストロゲン」を作る酵素である。

 テキサス大学オースティン校海洋科学研究所の海洋生物学者で、研究の共著者M・S・ラーマン氏によると、クローカーの体内に取り込まれた酸素の約20%は脳が消費するという。「酸素量が低下すると、脳や、脳で作られる神経ホルモンと神経ペプチドに影響が出る」。

 クローカーをはじめ、多くの魚は、元々オスの生殖器を備えている。精巣を卵巣に変えるために、エストロゲンが必要となる。ラーマン氏と同僚のピーター・トーマス氏は、酸素欠乏によりエストロゲン濃度が低下したことで、卵巣細胞の一部が精巣に戻ったと推測している。

 オス化したメスの精巣は、正常なオスと比べ、サイズが小さくあまり発達していなかった。ラーマン氏によると、メスの精巣からも精子が検出されたが、正常な卵を受精させるには不十分であったという。メスより度合いは小さいものの、オスも酸素欠乏の影響を受ける。研究では、メキシコ湾のデッドゾーンで捕獲したクローカーと、低酸素環境で飼育したクローカーを分析。どちらも平均より精巣が小さく、精子の数も少ないことが判明した。

 オスとメスの両方で確認された生殖器異常は、デッドゾーンに生息する魚の孵化率低下の一因とも考えられる。クローカーの孵化率が通常は約40~80%であるのに対し、酸欠海域では10%と低い。そのうえ、この海域のメスは、オスの子どもを産む確率が通常より1.5倍高かった。孵化率の低下と性比の偏りは、クローカーの個体数に影響を及ぼし、長期的には絶滅にいたる可能性があると懸念されている。

「クローカーは極めて一般的な魚だが、個体数減少の危険はある。そのため、性比の偏りなどの要因は、大きな問題を引き起こすかもしれない」と、バトンルージュにあるルイジアナ州立大学の水産生物学者プロサンタ・チャクラバーティ氏は述べる。

 同氏によると、他の魚が同じような影響を受ける可能性もあるという。クローカーは低酸素環境に対する耐性がやや高い以外は、メキシコ湾に住む他の魚と大きな違いはないからだ。「クローカーはメキシコ湾の代表的な魚だ。研究結果は、この海域に住む硬骨魚全般に当てはまるかもしれない」。

 今回の研究は、「Proceedings of the Royal Society B」誌オンライン版で5月25日に公開された。

Photograph courtesy NOAA

文=Ker Than

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