古代アメリカのカカオは宝石に匹敵?

2011.03.30
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アメリカ、ニューメキシコ州にある集落跡「プエブロ・ボニート」で復元された建物の内部(資料写真)。

Photograph by Michael Melford, National Geographic
 アメリカ、ニューメキシコ州チャコ・キャニオンの遺跡群にある集落跡「プエブロ・ボニート」で発掘された杯の破片から、チョコレートの主原料カカオの成分が検出された。メソアメリカ(現在のメキシコからコスタリカに至る地域)の人々と、アメリカ南西部にいた先住民との間で交易があった証拠ではないかと見られている。 プエブロ・ボニートは紀元850年から1150年にかけて、先住民のプエブロ族によって建設された集落であり、古代チャコ文化の中心地であった。一方、カカオの木は中南米に自生する熱帯植物で、アメリカ先史時代の栽培地はメソアメリカを北限とする。

 研究グループのリーダーを務めたペンシルバニア大学考古学人類学博物館のドロシー・ウォッシュバーン氏は、「11世紀から14世紀にかけてプエブロ・ボニートはメソアメリカとプエブロ族との交易の要衝であり、想像以上に緊密な関係が存在したことが伺える」と話す。

 ニューメキシコ州の一帯では、かつてプエブロ族がトルコ石(ターコイズ)などの宝石を採掘していた。プエブロ・ボニートを訪れるメソアメリカの人々は、持ってきたカカオ豆を宝石に交換していた可能性が高いという。

 メソアメリカとアメリカ南西部の先住民との交易は多くの専門家が指摘している。例えば、プエブロ・ボニートを始めアメリカ南西部の各所で、メソアメリカ原産のオウムの死骸や銅製のベルなどが発掘されている。

 また、メキシコ古代マヤ文明の都市遺跡チチェン・イッツァではトルコ石の破片が見つかっているが、一帯に鉱脈は存在しない。

 一方2009年には、プエブロ・ボニート付近で発見された杯の破片から、カカオに含まれるテオブロミンという成分が検出された。カカオがアメリカ南西部にまで運ばれていた事実を示している。

 この発見を受けてウォッシュバーン氏らの研究グループは、当時プエブロ・ボニート周辺で生活していた上流層や農民が使用した計75個の杯を調べ、うち50個からテオブロミンを検出した。その中には農民が使用した杯も含まれていた。

 ウォッシュバーン氏は、「思いがけない結果だ」と語る。「予想とは裏腹に、かなり多くの人々がチョコレートを口にしていたことになる」。

 通常は上流層だけが口にできるはずのチョコレートを庶民も飲んでいたという事実に、コーネル大学のメソアメリカ文明専門家ジョン・ヘンダーソン氏も驚きを隠さない。ヘンダーソン氏は、チャコ文化に特徴的な巨大建造物では庶民と上流階級とが一堂に会して盛大な祝宴を開いていた可能性を指摘している。

 メソアメリカでは元々チョコレートは日常的な飲み物であり、社会的に重要な行事には必ずカカオが供された。ウォッシュバーン氏によると、16世紀にスペイン人征服者がアステカ皇帝モンテスマと始めて対面したとき盛大な宴が催され、その席でも表面を泡立てたカカオ飲料がふるまわれた。用意されたカカオ飲料は巨大な壺50個分以上にも及んだという。

 乾燥したカカオ豆と水を主原料とした、チョコレートの原型ともいうべきカカオ飲料で、口当たりを良くするためにチリペッパーやハチミツ、バニラビーンズなどを加えることもあったという。プエブロ族もメソアメリカの人々にならって、同じカカオ飲料を作ったのではないかと考えられる。

 身体への効用も、古代の人々がカカオを多用した理由の1つと見られている。カカオに含まれるテオブロミンには強心作用や気道拡張作用があり、摂取すると呼吸が楽になる。戦場に赴くメソアメリカの兵士達は、カカオを与えられ奮起したと伝えられている。

 ウォッシュバーン氏らは杯の破片のテオブロミンが、モチノキの仲間であるヤポンノキなどアメリカ南西部原産の植物に由来する可能性も検証したが、否定的な結論に達した。

 自説以外の可能性も徹底的に検証するウォッシュバーン氏らの姿勢にヘンダーソン氏は、「メソアメリカとプエブロ族との交易を示す直接的な証拠はないが、ウォッシュバーン氏らが唱える学説は信憑性が高い」と評価している。

 今回の研究結果は、「Journal of Archaeological Science」誌3月号に掲載されている。

Photograph by Michael Melford, National Geographic

文=Christine Dell'Amore

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