有毒物質PCBへの耐性を獲得した魚

2011.02.21
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ハドソン川で捕まえたトムコッドの成体。

Photograph courtesy Mark Mattson, Normandeau Associates via Science/AAAS
 アメリカ、ニューヨーク州を流れるハドソン川の底に生息する魚が、ポリ塩化ビフェニル(PCB)の毒性から身を守る遺伝子を生み出した。 タラの仲間トムコッド(学名:Microgadus tomcod)は、現在使用が禁止されている工業用化学物質PCBの汚染で有名なハドソン川でも暮らすことができる。また、世界中の生物と比べても進化のペースが際立って速いという。

 調査を主導したのは、ニューヨーク大学医学部で環境毒性学を研究するアイザック・ワージン(Isaac Wirgin)氏だ。「極めて急速な遺伝的変異が起きている。進化は本来、数千~数百万年のスパンで語られるものだが、今回はおそらく20~50の世代交代中での出来事だろう」。

 PCBは1929年にアメリカで工業生産が始まって以来、工業用、商業用に重宝されてきた。代表的な用途は電気絶縁体だ。50年後に使用禁止となったが分解されにくいため、いつまでも環境に残存する。

 全長25センチ程度のトムコッドはPCBにさらされながらも繁栄している。しかも、肝臓から検出されるPCBの値は自然界で例がないほど高い。だが、大部分の魚にとって致死量の環境下でも生き続けられる理由は解明されていなかった。

「研究所でPCBにさらした胚は、心臓が小さくなり正しく鼓動しない」とワージン氏は話す。何か身を守る手段があるのではないかと推測した同氏らは、4年にわたって冬の産卵期、ハドソン川内の汚染された場所と比較的きれいな場所からトムコッドを捕獲し続けた。

 その結果、トムコッドは見事に遺伝子を変異させていることがわかった。PCBが特異的に結合するタンパク質、芳香族炭化水素受容体2(AHR2)をコードしていたのである。AHR2は、生物のほとんどの細胞・組織に存在する。

 トムコッドはAHR2遺伝子のDNAの塩基対6つ、さらにアミノ酸2つに対応するトリプレット(3個の塩基の組み合わせ)を欠いている。PCBは変異した受容体としっかり結合できないため、毒性が弱まると考えられる。

 この適応はハドソン川のトムコッドほぼ全体に見られる。一方、コネティカット州を流れるナイアンティック川と、ロングアイランド南岸にあるシャインコック湾の個体にはほとんどない。ハドソン川全域の適応は、そこに生息する個体がPCB排出以前から変異し始めていたことを意味するとワージン氏らは考えている。そして、自然選択の例に漏れず、変異した遺伝子を持つ個体が生き残ったのだ。

「彼らは突然、化学物質に襲われた」とワージン氏は語る。「生まれて間もない魚は傷つきやすい。もし対処する機構を持っていなければ、全滅していた可能性が高い」。

 ただし、ハドソン川のPCB浄化はトムコッドのためにならないかもしれないとワージン氏は指摘する。進化論によれば、このような遺伝的変異は別の生態的な犠牲の上に成り立っている可能性があり、もはやクリーンな環境にはうまく適応できない可能性があるためだ。一方、ハドソン川に暮らす肉食魚にとっては朗報だろう。PCBに適応している可能性は低く、トムコッドを食べることで大きな危険にさらされているためだ。

 この研究結果は、「Science」誌オンライン版に2月17日付けで掲載されている。

Photograph courtesy Mark Mattson, Normandeau Associates via Science/AAAS

文=Anne Minard

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