温暖化でホッキョクグマの食生活に変化

2010.11.09
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羽毛の巣で孵化(ふか)の時を待つハクガンの卵(カナダで撮影)。

Photograph by Des and Jen Bartlett, National Geographic
 地球温暖化によって北極海の氷が融解するにつれ、ホッキョクグマが海で十分な食料を捕獲できなくなってきた。その影響で渡り鳥ハクガンの卵がホッキョクグマの新たな獲物になっている可能性があるという。 ホッキョクグマは、海に浮かぶいくつもの氷盤を移動しながらアザラシなどを捕獲し、春に気温が上昇して氷盤が解けると陸地へ戻る。だが気候変動の影響で氷盤の解ける時期が年々早まっているため、近年は海で狩りをする期間が短くなってきている。

 アメリカ自然史博物館の研究員でニューヨーク市立大学教授も務める生物学者ロバート・ロックウェル氏らが行った研究によると、カナダのハドソン湾に生息するホッキョクグマは、陸地へ戻る時期が早まったという。7月中旬から6月下旬へ2週間ほど繰り上がったのだ。

 6月下旬は、ハドソン湾でハクガンが抱卵している時期と重なる。ハクガンの卵はトウゾクカモメやホッキョクギツネに襲われることも多いが、大食漢で知られるホッキョクグマが食べる量は比べものにならない。ロックウェル氏の話では、1頭のホッキョクグマが4日間で800個以上の卵を食いあさったとの報告もあるという。

 一部の専門家の間では、営巣中のハクガンがホッキョクグマの餌食になり、激減または全滅するのではないかという懸念が広がっている。

 ロックウェル氏らの調査結果によると、現在のところハクガンは十分な個体数を維持しており、ホッキョクグマの影響は小さいという。しかし、腹を空かせたホッキョクグマにとってハクガンの卵が貴重な食料源になる可能性は依然として高い。

 その理由の1つとしてロックウェル氏は、卵の効率性を指摘する。大きさは鶏卵の2倍程度だが、栄養価はそれを上回る。ロックウェル氏が行った計算によれば、ハクガンの卵およそ88個でアザラシ1頭分のカロリーを摂取できるという。

 ハクガンは渡り鳥で、北アメリカのより温暖な地域で越冬する。通常は5月下旬に北極圏へ飛来し、8月ごろまで繁殖活動を行う。カナダにも毎年数百万羽が繁殖のために飛来し、メス1羽あたり平均4個の卵を産む。

 国際自然保護連合(IUCN)によると、ハクガンは分布範囲が広く、世界全体の生息数も増加中と見られるため、現在のところ絶滅の危険は極めて低いと考えられている。

 ロックウェル氏らが当初行った調査では、卵がホッキョクグマの新たな食料源になっているのではないかと疑われたが、最新の研究では現時点で絶滅する危険性はほとんどない。

 ロックウェル氏らは過去の記録を基にして、北極圏が春を迎えるとともに始まる氷盤の融解、ホッキョクグマの陸地への移動、ハクガンの飛来、そしてハクガンの産卵という4つの事象を時系列に配置してみた。

 その結果、地球温暖化が進むにつれて、ホッキョクグマが陸地へ戻る時期とハクガンの飛来時期が重複する可能性は高くなるが、接触がほとんど無い年もあると明らかになった。ロックウェル氏はこう説明する。「ごく自然な気候変動によるものだ。数年に1度このような年があれば、減少したハクガンの個体数も元に戻るだろう」。

 今後数年間は、ホッキョクグマが陸地へ戻る時期が早まると見られているため、卵が重要な食料源となる可能性はますます高まることになる。「クマにも事情がある。食料を発見すれば、それを利用するのは当然だろう」とロックウェル氏は話している。

 今回の研究は、「Oikos」誌のオンライン版に10月18日付けで掲載されている。

Photograph by Des and Jen Bartlett, National Geographic

文=Ker Than

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